prime

<書評>『オキナワノスタルジックストリート』 街の風景切り取り面白がる


<書評>『オキナワノスタルジックストリート』 街の風景切り取り面白がる 『オキナワノスタルジックストリート』ぎすじみち著 ボーダーインク・2640円
この記事を書いた人 Avatar photo 外部執筆者

 著者の通称“ギスミチ”さんとはあらゆるところで出くわす。僕のイベントに彼女がお客さんとして来てくれる確率が高いし、自分が客として行ったイベントや上映会場などでもよく会う。知人からどこそこでギスミチさんを見かけた、という話もたまに聞く。彼女のSNSの投稿からも行動範囲の広さに驚く。

 そんな文字通りフットワークの軽い彼女が、好奇心を原動力に沖縄のあちこちを巡って発見したレトロな看板、建物、風景などの写真を紹介したのが本書だ。各ページに添えられたコメントを読みながら本書の写真を眺めていると、普段から面白いもの、気になるものを写真に記録しては、妄想にふけってにんまりしている彼女の姿を想像してしまう。

 彼女は「VOW」に影響を受けたらしい。実は僕も「VOW」にハマった世代。「VOW」はサブカル雑誌「宝島」の読者投稿欄に端を発し、これまで読者から送られてきた看板や印刷物、商品パッケージなどの「ヘンなモノ」をまとめて紹介していた書籍シリーズで、80年代後半頃から90年代にかけて、当時のサブカル好きの間で流行(はや)った。懐古的なネタに限定していたわけではないけど、時代錯誤感のあるネタが自然と多く集まっていたと思う。

 ギスミチさんの本書のタイトルには「ノスタルジック」の言葉が入っているけど、彼女が面白風景を写真に収めることを始めた90年代の頃は、おそらく懐かしさを求めていたわけではないだろう。しかし、近年彼女が撮った写真を見るとレトロなモノへの執着が感じられ、無くなりつつある風景の「記録」を途中から意識しだしたのかもしれない。90年代の写真も撮影から20、30年も経つと、特に街の中心地は大きく様変わりするわけで、時代の変遷を感じずにはいられない。

 いずれにせよ、つい見過ごしてしまいそうな街の風景の一部を切りとり、それに対する彼女なりの面白がり方や考察、疑問の一つ一つに「フムフム」といっしょになって楽しめる。懐かしさに関係なく、若い世代にも手にしてほしい。

 (當間早志・映画監督、沖縄映画史研究家)


 ぎすじ・みち 1973年那覇市生まれ。デザイナー。高校時代に街の面白風景を撮り始め、現在はSNSで写真を投稿しながら味わいのある風景を探し続けている。著書に「オキナワノスタルジックタウン」。