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<書評>『沖縄山原/統治と抵抗 戦後北部東海岸をめぐる軍政・開発・社会運動』 「高江」を社会学的に分析


<書評>『沖縄山原/統治と抵抗 戦後北部東海岸をめぐる軍政・開発・社会運動』 「高江」を社会学的に分析 『沖縄山原/統治と抵抗 戦後北部東海岸をめぐる軍政・開発・社会運動』森啓輔著 ナカニシヤ出版・4950円
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「国は今、金と権力を使って、行政という権力の上に、さらに司法という権力を用いて、自らの強引なやり方を押し通そうとしている」。この発言を、辺野古新基地の設計変更をめぐる裁判で、最高裁が県の敗訴を言い渡したことに対するものだと思った方も多いだろう。実はそうではない。2008年12月、東村の高江で、ヘリパッドの建設工事を開始させぬよう座り込みを行っていた15名の住民たちを、沖縄防衛局が通行妨害として訴えたことに対する、住民弁護団からの発言だ。

 このように、辺野古の埋め立ても高江のヘリパッド建設も、同じ構図のもと、政府により強引に進められている。にもかかわらず、高江で実践された建設を阻止するためのさまざまな活動は、辺野古ほどには知られていない。その記録と記憶の薄さを、本書は圧倒的な情報量で補った上で、高江で起きていたことの意味を社会学的な分析を通して描き出した。そのことだけでも大きな意義がある。

 さらに本書の意義を高めているのが、高江の問題を、沖縄をめぐる問題系のなかに位置づけたことにある。例えば、普天間基地の返還の条件としての辺野古への基地建設と、北部訓練場の返還の条件としての高江へのヘリパッド建設という類似性からは、政府が最初から分断の火種を仕込んでいたことが見えてこよう。

 そして特筆すべきは、本書が、沖縄の文脈のなかにおける高江の位置をも描き出していることである。翁長前知事やオール沖縄勢力は、辺野古新基地建設とオスプレイ配備には反対したが、高江のヘリパッド建設は事実上認めていた。それは高江が幾重にも周辺化されてきた地域であるからだということを、北部東海岸をめぐる統治の歴史を丁寧に描き出すことで説得的に論じきっている。

 周辺化された高江の弱さが、高江を訪れた人たちを惹(ひ)きつけ、各地で多様な支援が展開されたことなど、社会運動論的にも学ぶところの多い本書は、これからの反基地運動を考える上でも必読だろう。

 (熊本博之・明星大学教授)


 もり・けいすけ 専修大学経済学部教員。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学、博士(社会学)。日本学術振興会海外特別研究員、琉球大学島嶼地域科学研究所研究員を経て、現職。