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<書評>『国立台湾大学図書館典蔵 琉歌大観 第1~4巻』 琉球文学の枠組みの出発


<書評>『国立台湾大学図書館典蔵 琉歌大観 第1~4巻』 琉球文学の枠組みの出発 『国立台湾大学図書館典蔵 琉歌大観 第1~4巻』池宮正治、大城學、前城淳子、田口 恵、石川恵吉、大城亜友美編 国立台湾大学図書館
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 本書の主編者の池宮正治が「幻の琉歌集 笑古本『琉歌大観』」を新聞に発表したのは、1986年である。「幻の琉歌集」には、池宮の驚きと期待が溢(あふ)れていた。その10年後に、琉球大学附属図書館にこのマイクロフィルムが入った。池宮の「琉歌大観」「概要」(第一巻所収)によると、「大観」の編者である真境名安興が1933年に亡くなった後、「大観」は神奈川県の古書店に売られたという。沖縄県立図書館はそれを購入しようとしたが高価なために買えず、その後の行方が不明になった。

 しかし、古書店に売られる前に、台北帝大が人を派遣して書写させていた。これが1986年に「台湾大学研究図書館蔵日本古典籍目録」にあることが確認され、関係者の理解と努力により今年の4月に、「琉歌大観」全四巻が国立台湾大学図書館から出版されたのである。よく内容が検討された「解題」を含めて、長い時間をかけて翻刻・校訂等に携わった主編者等の仕事に敬意を表したい。

 「琉歌大観」は、いわゆる琉歌だけを集めた書ではない。オモロを除く、琉歌から口説、つらね、民謡、クェーナや京太郎の歌・念仏歌、木遣(や)り、組躍(くみおどり)等、そして、奄美大島や宮古、八重山の歌までを網羅した歌謡資料集である。「大観」の構成は、現存しない「琉球大歌集」(小橋川朝昇編、1878年か)の構成を踏まえているとみられ、これに奄美大島や宮古、八重山の歌等を加えている。「大観」は少なくとも1917年頃には出来ていたと考えられるから、琉球・沖縄にとっての最初の本格的な大系的な文学資料集なのである。それを「琉歌大観」とした。この意味を考える必要がある。

 真境名は狭義の琉歌を「三十字形短歌」(三十字詩)としている。この捉え方は、明治40年前後期の沖縄の新たな文芸興隆が背景にあると思われる。「大観」の構想は、その思潮の中から生まれた。「琉歌大観」は琉球・沖縄にとって最初の文学大系であり、オモロを加えると「琉球文学」の枠組みはこれが出発になると考えていい。「琉歌大観」全四巻の刊行の意義は大きい。

 (島村幸一・立正大学教授)
 ※県内は榕樹書林で販売。各巻6600~7700円。


 いけみや・まさはる 琉球大学名誉教授。

 おおしろ・まなぶ 岐阜女子大学特任教授。

 まえしろ・じゅんこ 琉球大学准教授。

 たぐち・めぐみ 那覇市歴史博物館古文書解読員。

 いしかわ・しげよし 法政大学沖縄文化研究所国内研究員。

 おおしろ・あゆみ 与那原町教育委員会司書。