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<書評>『いちゅんどー!西原高校マーチングバンド』 葛藤や成長 リアルに描く


<書評>『いちゅんどー!西原高校マーチングバンド』 葛藤や成長 リアルに描く 『いちゅんどー!西原高校マーチングバンド』オザワ部長著 新紀元社・1925円
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 「ウチナーンチュでない小説家が“我らが西高”を表現できるの?」

 疑問から本書を手に取る人は多いだろう。しかし、この小説には、フィクションを超えた西原高校マーチングバンドの“真実”がある。もちろん登場人物や出来事の一つ一つは架空であるが、西高に関わってきた私は、あの当時を彷彿(ほうふつ)とさせる物語になっていると分かる。登場人物たちが実在の人物とカブって感じられるのだ。著者の細やかな取材力と深いマーチング愛が、この小説の醍醐味(だいごみ)となって表れている。

 西高バンド部は、生みの親である大城政信先生が4年に一度の世界音楽コンクールへ1998年に初出場を果たし、その後も大城先生の意志を受け継ぎ、歴代顧問や多くのスタッフが、保護者や学校の支援を受けて継続出場してきた歴史がある。華やかな演技を見せてくれる吹奏楽バンドは、演奏指導者や構成者など多くのスタッフが関わり、また金銭面などを支える保護者や学校の理解と、長年続けていくためには様々(さまざま)な条件をクリアしなければならず、他の音楽活動とは異なる特殊性を持つ。それゆえ長年活躍を続ける西高バンド部は、県内でも稀(まれ)な存在である。

 ところが予期せぬコロナ禍。西高も危機に立たされた! 多くの部活動が下火になり、どの中学、高校も未だ復興の最中である。本書は、コロナ禍やロシア・ウクライナ戦争という政情不安を乗り越え、2022年に世界大会に出場した“事実“に基づく点も、まさに“今”読む価値がある!と言えるだろう。 全体として、部員達の会話によって進められていく小説である。沖縄の置かれている状況を背景に、部員たちの活動の様子と心の葛藤や人間的成長がリアルに描かれており、中高生と関わってきた私は引き寄せられるように読み進め、今すぐにでも西高のマーチングや部員たちの姿を見に行きたくなった。

 西高ファンや吹奏楽関係者ばかりでなく、様々な部活に打ち込む中高生を応援してくださる方々には、ぜひ読んでいただきたい一冊である。

 (玉城哲也・沖縄県マーチングバンド協会参与)


 おざわぶちょう 1969年、神奈川県横須賀市出身。全国の吹奏楽部を取材する吹奏楽作家。主な著書に「空とラッパと小倉トースト」「旭川商業高校吹奏楽部のキセキ 熱血先生と部員たちの『夜明け』」など。