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物価抑制の目算狂う 円安 34年ぶり水準 弱さ見透かす投資家


物価抑制の目算狂う 円安 34年ぶり水準 弱さ見透かす投資家 1990年7月以来約34年ぶりの円安水準を付けた円相場を示すモニター=27日午前、東京都港区の外為どっとコム
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 外国為替市場の円相場が34年ぶりの安値に下落した。輸出企業に追い風となる一方、物価の一層の押し上げ要因となり家計にはマイナスだ。日銀の先週の利上げで通常は円高が進むはずだが、投資家は日本経済の弱さを見透かし、円売りを続けた。円高で物価を抑制したい岸田政権の目算は狂い、残る手だては為替介入となる。だが効果は限られており、米国の利下げ時期が見通せるまで円安は止まらないとの見方が広がってきた。 (1面に関連)

 タカ派

 「ゆっくりと着実に金融政策の正常化を進める」。日銀の田村直樹審議委員が27日午前に講演した内容が東京市場に伝わると円安が加速し、一時1ドル=151円97銭に下落した。日銀内で利上げに前向きな「タカ派」とされる田村氏が慎重姿勢を示したと投資家は判断し「追加利上げは当面ない」と円売りに走った。田村氏は午後の記者会見で「利上げを一切しません、ということではない」と説明したが、もう相場は大きく動かなかった。

 不安な先行き

 円を売る投資家を支える根拠は、日銀の利上げ後も続く圧倒的な日米の金利差だ。

 日銀は19日の金融政策決定会合でマイナス金利政策を解除し、政策金利を0~0・1%にすると決めた。植田和男総裁はこの時の記者会見や、27日午後の衆院財務金融委員会で「当面、緩和的な金融環境が継続する」と強調した。

 一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利を5・25~5・5%に設定している。年内に3回利下げするとの予測も示すが、いつ始まるかは明確ではない。今後は日銀が利上げ、FRBは利下げする可能性が高いが、しばらくは日米金利差の広がった状況が続くとの見方から、投資家は運用に有利なドルを買い、円を売っている。

 日銀が利上げをゆっくり進めたい根本の理由は、日本経済の先行きがまだ不安なためだ。賃金の上昇は物価高に追いついておらず、個人消費は3四半期連続でマイナスだ。農林中金総合研究所の南武志理事研究員は「日本は景気下支えがまだ必要で、早期利上げには簡単に動けない」と指摘する。

 戸惑い

 鈴木俊一財務相は27日「行き過ぎた動きには、あらゆるオプション(選択肢)を排除せずに断固たる措置を取っていく」と述べ、為替介入をちらつかせた。神田真人財務官も「円安の背景に投機的な動きがある」とけん制した。物価高を招き、岸田政権の支持率にも響きかねない円安を何とか押しとどめたい焦りがにじむ。

 政府には日銀の決定会合前「1ドル=150円台はさすがに安い」(財務省幹部)と、利上げを待ち望む雰囲気があった。期待通り利上げしたが、円安に振れたことには「想定通り」と平静を装う一方「これからは分からない。投機筋の動きは気をつけないといけない」と警戒を強めていた。

 「植田総裁が『緩和的環境が続く』と言い過ぎた。マイナス金利解除の影響を和らげたい気持ちは分かるが…」(経済官庁幹部)と戸惑う声もあった。

 介入には「円安に歯止めをかける一つの手段だが、効果は限定的だろう」(南氏)との見方が根強い。政府内からも「FRBの利下げなくして、本格的な円安修正にはつながらない」(関係者)との声が上がっている。

(共同通信)