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請願後1カ月で町長表明 原子力頼みの町づくり 懸念も 核のごみ文献調査受け入れ   


請願後1カ月で町長表明 原子力頼みの町づくり 懸念も 核のごみ文献調査受け入れ    核のごみ調査の流れ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 原発が立地する佐賀県玄海町が高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定の文献調査受け入れを決めた。町議会が請願を受理してからわずか1カ月。経済産業省は大型連休の合間に幹部を派遣するなど動きを加速、北海道の2町村に続く候補地を確保し、他自治体の応募の呼び水になると期待を寄せる。ただ原子力頼みの町づくりには懸念も残る。
 (23面に関連)

■焦点

 「原発に長年携わり、国に貢献してきた。さらに協力することは非常に重い決断だ」。玄海町の脇山伸太郎町長は10日、記者会見で強調した。同町には九州電力玄海原発3、4号機がある。旅館組合などが調査を求める請願書を提出し、町議会は4月4日に受理。15日に請願提出が明らかになり26日に採択し、脇山氏の判断が焦点となった。
 動いたのは経産省だ。今月1日に幹部を派遣、町長に申し入れ書を手渡すとともに斎藤健経産相との面会を打診した。経産省関係者は「申し入れだけでは、町長は『うん』と言ってくれないとは思っていた」と明かす。
 その面会は大型連休直後の7日に実現。「悩んでいる」と打ち明けた脇山氏に、斎藤氏が「調査は処分場選定に直結しない」と応じ、スピード決定につながった。

■期待

 電力関係者は「今回は国が前面に出て動きも早い。対馬での反省もあったのだろう」と解説する。長崎県対馬市では誘致の動きが表面化してから決着まで約半年の間に賛否双方の請願が提出された。議会は賛成の請願を採択したが、市長が反対を表明。誘致は頓挫し、地元にしこりを残した。
 処分場選定は停滞している。第1段階の文献調査に応じたのは北海道寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村の2町村のみ。調査は終盤だが、北海道知事が第2段階の調査に反対し、両町村でも他の候補地が現れないことに不満が募る。政府は調査地ゼロに戻りかねない状況に焦っていた。
 原発の使用済み核燃料は青森県六ケ所村で建設中の再処理工場でプルトニウムとウランを抽出、原発で再利用する。再処理で出る廃液を固めた核のごみの処分場は国策の核燃料サイクル実現に不可欠だ。玄海町の動きに経産省幹部は「うちもうちもと続いてくれると良いが」と期待。ある与党国会議員は「他の原発立地自治体でも手を挙げる動きがある」と話す。

■押しつけ

 文献調査に応じた自治体には国から最大20億円の交付金が支払われる。玄海町は県内唯一の地方交付税不交付団体で財政面では豊かとされ、脇山氏は「社会が最終処分に向き合う一石を投じる」とし、交付金目的ではないと強調する。
 ただ収入の多くは原発関連の交付金や固定資産税だ。玄海1、2号機は廃炉となり作業員相手の飲食業や宿泊業は苦戦が見込まれ、他の核となる産業も育っていない。人口も減少し、民間組織「人口戦略会議」が公表した全国の「消滅可能性自治体」の一つに選ばれた。脇山氏は実際に交付金を受け取るかどうか、明言を避ける。
 島根大の関耕平教授(地方財政論)は、財政措置を条件に自治体に手を挙げさせる方式は、過疎などで苦しむ地域の自律的な発展の機会を奪うと指摘。「交付金をえさに、過疎などで苦しむ自治体をターゲットとした『押しつけ政策』で、全国に関心が広がるわけがない」としている。