地方銀行のきらやか銀行(本店・山形市)と仙台銀行を傘下に持つ、じもとホールディングス(仙台市)は、きらやか銀の不良債権処理費用が急増したため、2024年3月期連結決算の純損益が234億円の赤字となった。この赤字を機に、地銀の課題があらわになったと考えている。健全性を維持しながら中小企業を支える「経営力」が問われるという課題だ。
大幅赤字の原因は、きらやか銀に180億円を超える貸倒引当金不足が発生したことだ。
中小企業の再生支援に詳しい北門信用金庫の伊藤貢作企業支援室長が、きらやか銀の企業支援アドバイザーとして着任した23年7月以降、引当金不足の不良債権が次々に発覚した。
例えば、高齢の社長が経営する企業では、後継者とされた若手に経営を承継する気がないのに、きらやか銀は、この実態を把握していなかった。
さらに重要な事実がある。金融庁検査でも引当金不足を見抜けなかったのだ。財務資料しか点検せず「中小企業の現場に分け入らない検査では何もできない」(金融庁幹部)。中小企業の経営実態に迫る金融庁検査の質的改善も課題だ。
他方、地銀経営の実情にも目を向ける必要がある。
地銀の経営陣が引当金の計上を渋るのは、収益力が足りないことが真の原因だ。十分な収益力があれば、予防的に引当金を積むことができる。このため金融庁は地銀に対し、顧客企業と自行の収益をともに拡大させる「共通価値の創造」を促してきた。
顧客企業の課題解決を通じた「善き収益」を伸ばせない地銀は、学生から将来性を疑問視されて就職先として選ばれず、採用も苦戦する。経営の根幹である人的資本が崩れれば地銀はじり貧だ。
金融庁が財務資料しか見ない検査を繰り返すだけでは、地銀が企業取引に慎重となり、かえって収益力を落としかねない。地銀の支援なしで課題を解決するのが難しい中小企業は、生産性向上を通じた賃上げを実現できない恐れもある。
企業融資がある限り、不良債権は生まれる。地域金融機関の経営者に求められるのは、中小企業との取引を通じた「善き収益」を増やし、十分な引当金を積みながら人的資本を築くという好循環の実現だ。(共同通信編集委員・橋本卓典)
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「経営力」問われる地銀 きらやか銀 赤字で課題
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琉球新報朝刊