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低年金者の対策急げ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 公的年金の将来見通しを示す「財政検証」の結果が5年ぶりに公表された。前回に比べ出生率の想定を低めに見積もったにもかかわらず、近年の堅調な経済成長を反映して良好な結果となった。しかし、政府の戦略通りに経済が成長しても基礎年金(国民年金)の目減りは避けられず、制度の見直しは必要だ。
 現在の年金制度では、現役世代が負担する保険料を据え置く代わりに、年金財政が健全化するまで高齢者向け給付の実質的な削減が続く。「マクロ経済スライド」という仕組みである。
 今回の財政検証結果によると、政府が指標としている将来の現役世代の手取り収入と比べた給付水準(所得代替率)は、過去30年間の経済成長の実績を投影したケースでは、現在の61・2%から2057年度に50・4%へと下がる。しかし、政府が04年の年金改革で約束した50%を確保できる見通しとなった。
 5年前の前回は同様の前提で50%を下回っていた。今回は株式相場が好調で積立金残高が前回の想定を大幅に上回り、女性や高齢者の就業率の上昇で公的年金加入者数も前回想定を上回ったことで、結果が好転した。
 また、将来の生産性上昇率がバブル期を含む過去40年間の平均(1・1%)に回復し、将来の60代後半の就業率が現在より男女とも大幅に上昇するケースでは、所得代替率が57・6%と小幅な低下で済むことも示された。「前提となる生産性上昇率や就業率の設定が甘い」と批判するのではなく、高齢者も働きやすい社会を構築する方向を目指したい。それが年金給付の底上げにつながる。
 ただし所得代替率50・4%にしろ57・6%にしろ、いずれも厚生年金加入の夫と専業主婦という「モデル世帯」の値であることに留意したい。
 内訳を見ると、会社員や公務員だった人が受け取る厚生年金(2階部分)はほとんど水準が低下しないのに対し、全加入者に共通の基礎年金(1階部分)は現在の36・2%から25・5%へ、経済成長が良好なケースでも32・6%へ低下する。
 所得代替率の低下は、年金の実質的な価値が目減りすることを意味する。厚生年金は現役時代の給与に応じて年金額が決まる。非正規雇用など給与が少ないほど年金総額に占める基礎年金の割合が大きいため、基礎年金が目減りする影響を強く受ける。こうした低年金の人への対策は急務だ。
 問題解決に向け厚生労働省は今回、多様な対策案を示して試算した。
 第1案は、厚生年金に加入する対象者の拡大だ。基礎年金だけでは厳しい老後になるため、給付が手厚い厚生年金の受給者を増やすのが狙い。
 第2案は、国民年金保険料の拠出期間延長による給付の増額だ。現在の40年を45年に延ばし、1階部分の受給額を現行より約1割引き上げることで目減りを補う。
 第3は、マクロ経済スライドによる基礎年金と厚生年金の給付削減期間をそろえる案だ。現状では現役時代の給与が少ないほど大幅な給付削減となる問題があるが、期間を一致させる見直しにより根本的に解決できる。
 3案とも基礎年金の水準低下への対策として有効だ。今後の制度改正議論の行方を見守りたい。