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迎合と忖度の日米安保 米兵性的暴行事件 水島朝穂


迎合と忖度の日米安保 米兵性的暴行事件 水島朝穂 水島朝穂氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 沖縄県で米兵による性犯罪が相次いで発覚した。「またか」と憤りを感じるとともに、それだけでは済まない重大な問題が含まれることを指摘したい。私はかねて「迎合と忖度(そんたく)の日米安保」と呼んできたが、今回の日本政府の「忖度」は度を越しているからである。

 昨年12月に米空軍兵長が少女を誘拐しわいせつ行為をした事件が起きていた。今年3月27日に那覇地検が兵長を起訴したが、それが明らかになったのは6月25日だった。5月には米海兵隊員による不同意性交致傷事件も起きたが、これが報道によって発覚したのは6月28日だった。

 昨年12月の事件の発生から半年、兵長の起訴から3カ月。外務省はすべてを把握し、米側に抗議しながらも、県には伝えていなかった。

 その間に日米首脳会談(4月)、エマニュエル駐日大使の与那国島訪問(5月)が行われ、「日米同盟」の重要性が強調されている。6月には沖縄県議選があり、23日の「慰霊の日」には沖縄全戦没者追悼式が行われている。

 この「3カ月」は何だったのか。3月の段階で事件が判明していたら県民の激しい抗議行動が起こり、これらに少なくない影響を与えていたに違いない。岸田文雄首相はすべてを知っていて、「慰霊の日」あいさつで「基地負担の軽減」を語っていたのである。県民の生活と安全をないがしろにし、著しく誠実さを欠く姿勢だ。

 そもそも日米地位協定が、刑事裁判権を巡って日本側に著しく不利な立て付けになっていることが問題だ。公務中の米兵の犯罪について第一次裁判権が米側にあるのはもちろん、公務外(日本側に第一次裁判権)でも、身柄を米側が確保した場合、日本側が起訴するまで身柄は米側にある。

米空軍嘉手納基地のゲート前で、ボードを掲げて抗議する人たち=沖縄市

 日本では1960年の発効から60年以上、一度も改定されていない。

 私は22年前、在韓米陸軍基地キャンプ・ケーシーのある韓国北部の東豆川市を訪れ、米兵による女性殺害事件から10年の集会を取材した。その際、韓国の弁護士は、在韓米軍地位協定の改定を強く主張していた。特に裁判権の韓国側への移行、初動段階で韓国側の捜査権が行使できるようにすべきだと強調していた。

 他方、ドイツでは、90年代にNATO軍地位協定が改定され、容疑者段階で米軍人の身柄拘束が可能となっている。

 日本政府は不平等な協定の改定交渉をすることもなく、強制力のない「運用の改善」と、米側の「好意的配慮」に委ねている。「日米同盟」オンリーの思考の惰性から脱すべき時である。

 沖縄県は95年の少女暴行事件以降、「日米地位協定の見直しに関する要請」を続けている。自民党だけでなく、野党にも憲法改正に前のめりな姿勢が目立つが、こういう「憲法論戯」をする暇があったら、不平等極まる日米地位協定の改定に真剣に取り組むべきではないか。

  (早稲田大名誉教授)

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 みずしま・あさほ 1953年東京都生まれ。専門は憲法・法政策論。近著に「憲法の動態的探究」。公式サイト「平和憲法のメッセージ」を運営。