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底値見えず、パニック売り 景気不安、日銀に矛先も 株価急落    


底値見えず、パニック売り 景気不安、日銀に矛先も 株価急落     株価急落の背景と景気への波及経路
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 景気を占うバロメーターとされる日経平均株価が急落し、日本経済の不安材料がまた一つ増えた。東京株式市場は2日朝の取引開始直後から売り注文が殺到。底値の見えない展開にパニックの様相を呈した。景気停滞につながれば、個人消費の弱さが際立つ中で追加利上げを決めた日銀に批判の矛先が向かいそうだ。 (4面に関連)

しぼむ期待

 下げ幅が2000円を超えるのに、午前9時の取引開始から1時間もかからなかった。止まらない売り注文に、値が付かない銘柄が続出。東京証券取引所に近い岩井コスモ証券の東京コールセンターには顧客からの問い合わせ電話が相次いだ。「落ち着いて対応して」。本間大樹センター長が部下に声をかけた。
 日銀が7月31日に利上げを決め、続いて米連邦準備制度理事会(FRB)が9月の利下げを示唆したことで、円高ドル安が進行。日本からの輸出や企業業績の逆風になるとの見方から、8月1日の日経平均株価は大きく値を下げた。投資家心理が冷え込む中、2日は好調だった米国の景気が減速するとの懸念をきっかけに株価が急落した。
 2日の東京外国為替市場の円相場は1ドル=148~149円台で推移した。株価が4万2000円を超える史上最高値を付けた7月11日と比べ10円以上、円高ドル安だ。企業業績の拡大期待はしぼみ、欧州系の資産運用会社の幹部は「日本株投資に慎重になる投資家が増える」と予測した。

消費低迷

 円高は食料やエネルギーの輸入価格を抑え、家計を苦しめる物価高を和らげる効果がある。日銀の植田和男総裁は、物価上昇率が見通しに沿って推移すれば「一段の調整があり得る」と話し、年内の再利上げを視野に入れる。インフレ退治にめどを付けたFRBが利下げに踏み切り、日銀が再利上げを決めれば、一段と円高が進みそうだ。
 ただ円高は日本経済を支える自動車メーカーなど製造業の業績を圧迫する。円安を背景に増えてきたインバウンド(訪日客)の足かせにもなり、外国人でにぎわう全国の観光地に悪影響は及ぶ。
 こうした不安材料を抱える日本経済にとって、株価急落はさらなる重荷になる。株式を保有する家計の金融資産が目減りし、出費を控える恐れがあるためだ。実質国内総生産(GDP)の約半分を占める個人消費は2024年1~3月期まで4四半期連続のマイナス。個人消費の低迷が長引けば、景気の停滞が現実味を帯びてくる。

引き金

 個人消費の弱さを理由とする内部の慎重論を脇に置き、7月31日に利上げを決めた日銀。植田氏は記者会見で、景気への影響を問われ「強いブレーキがかかるとは考えていない」と回答した。
 とはいえ、日経平均株価の2日連続の急落は想定外だったとみられる。日銀審議委員を務めた野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは12月の再利上げを見込むが、株価の下落傾向が続いたり、急速に円高が進んだりすれば「年明け以降にずれ込む」と予想する。
 政府、与党が秋にまとめる経済対策は先行きの不透明感に対応して大規模になる可能性がある。巨額の財政支出を迫られそうな経済官庁の幹部は「景気が停滞すれば、政府、与党内で利上げが引き金になったとの見方が強まり、日銀批判は避けられない」と漏らした。

投資家心理 動揺大きく

 ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストの話 日経平均株価が急落したのは、海外の投機筋が日本株を売り、投資家心理が大きく動揺したためだ。経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の問題ではない。日銀が年内に追加利上げするとの観測から円高が進み、投機筋は日本株を手放して利益を確定する動きに出た。さらに1日発表の米経済指標が低迷し、米国の実体経済への懸念も深まった。日米の企業決算発表が続く中、株式市場が簡単に落ち着きを取り戻すかどうかは分からない。日経平均株価はしばらくの間、千円近い値動きで上下する荒い展開になる可能性がある。