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いびつな成長 かすむ理念 ふるさと納税1兆円 税収減自治体、獲得躍起


いびつな成長 かすむ理念 ふるさと納税1兆円 税収減自治体、獲得躍起 宮崎県新富町のふるさと納税返礼品のライチ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 ふるさと納税の寄付総額が1兆円を突破した。特産品が広まり、産業が育つ好循環が生まれた地域がある。ただインターネット通販感覚の利用が多く、「地域を応援するために寄付する」という本来の理念はかすんでいる。税収減となった都市部の自治体が反転攻勢する動きも出てきた。
 「地元の特産品と認められ、知名度も上がった」。宮崎県新富町の農家森哲也さん(52)は6月、ゴルフボール大に実ったライチの状態を確認しながら顔をほころばせた。以前は販路開拓に苦労していたが、返礼品に採用された2017年から、東京の百貨店やレストランでも取り扱われるようになり、一般への販売も好調だ。町への23年度の寄付額は18億円。16年度の4倍超に膨らんだ。一部は起業家育成の拠点づくりに充て、野菜の自動収穫ロボットを開発するベンチャー企業もできた。岡本啓二秘書広報室長は「寄付を投資に回すことで、新たな挑戦が生まれ始めた」と手応えを感じている。

 官製通販

 ただ、23年度は寄付総額の6割弱が上位1割の自治体に集中。人気のある返礼品を抱える自治体への偏りは明らかだ。
 大手仲介業者トラストバンクの調査によると、23年度に寄付した人の67・6%が「欲しい品を検索して寄付した」と回答。「思い入れがある自治体を選んだ」(27・3%)などを上回った。
 物価高が続く中、川崎市の女性会社員(36)も「返礼品以外にメリットを感じない。自治体名は意識せず、必需品でコスパが良いものを選んでいる」と言い切る。
 返礼品を人気順に並べ、寄付額に応じた特典ポイントを付与してお得感を強調するなど、仲介サイトが過熱に拍車をかけている面もある。
 「官製通販」との批判も受け、総務省は返礼品の調達費用に一定の上限を設けるなどしてきたが、焼け石に水。来年10月からはポイント付与を事実上禁止するが、功を奏すかどうかは不透明だ。同省幹部は「これだけ皆がありがたがっている制度。抜本的な見直しは難しい」と打ち明ける。

 赤字

 財源の流出が大きい都市部では危機感が高まっている。「赤字」を放置すれば行政サービスの提供に支障が出るためだ。
 「もはや看過できない」。川崎市の福田紀彦市長は4月の記者会見で不満をぶちまけた。市民が他自治体に寄付したことによる住民税減収額は136億円で、寄付額を100億円超上回る。打開に向け仲介サイトへの登録を大幅に増やすなど寄付獲得に本腰を入れる。減収額が上位の名古屋市も、地元企業が手がけるトレーニング機器「シックスパッド」を採用するなど、返礼品の種類をこの2年間で2倍に増やし、寄付額が上向いている。
 都市部以外からは「競争環境が厳しくなってきている」(九州の自治体関係者)と警戒の声も漏れる。
 いびつさを抱えたまま急拡大する市場。滋賀大の横山幸司教授(地方自治論)は、本来の理念に立ち戻るよう訴える。「寄付をどのように使い、何が実現できたのかを明示するよう自治体に義務付け、返礼品ではなく政策が評価される仕組みに改めるべきだ」