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家計負担増 避ける政策を 斎藤太郎 (ニッセイ基礎研究所経済調査部長)


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 内閣府が15日に公表した2024年4~6月期の実質国内総生産(GDP、速報値)は前期比で年率3・1%増え、2四半期ぶりにプラス成長に転じた。物価高による景気の下押し圧力は依然強いが、認証不正問題による生産・出荷停止の解除を受けて自動車販売が回復したことなどから、個人消費が前期比1・0%増と5四半期ぶりにプラスとなった。
 高水準の企業収益を背景に、設備投資は前期比0・9%増と2四半期ぶりに増加した。
 政府消費、公共投資も伸びて、国内需要が5四半期ぶりに増加した。
 4~6月期は高成長となったが、1~3月期の落ち込み(前期比で年率マイナス2・3%)の反動が出た面が強く、景気は一進一退の状態から抜け出したとは言えない。
 特に、家計部門の低迷は深刻で、個人消費と住宅投資は4~6月期に増加したものの、コロナ禍前(19年平均)と比べると、それぞれ1・1%、12・0%低い水準にとどまっている。
 7~9月期は6月に実施された所得・住民税の定額減税の効果もあって、個人消費が高い伸びとなり、4~6月期に続き年率3%前後のプラス成長が予想される。
 減税効果は一時的だが、10~12月期以降は物価の変動を考慮した実質賃金の上昇率が安定的にプラスとなり、実質可処分所得が持続的に増えて、消費を下支えすることが見込まれる。
 設備投資は四半期ごとに増加と減少を繰り返しているが、基調としては回復の動きが続いている。10~12月期以降は国内民間需要を中心に、潜在成長率(一国の経済の実力を示す推計値)とされるゼロ%台後半を若干上回る年率1%前後の成長が続くだろう。
 24年通年の成長率は前年比で0・1%と予想する。4~6月期以降はプラス成長が続くものの、1~3月期の急速な落ち込みが響き、年間を通してみれば低い成長にとどまりそうだ。
 コロナ禍後の日本経済の課題は、消費主導の成長実現だ。個人消費が長期にわたり低迷したのは賃金が上がらなかったのに加え、年金給付額の抑制や社会保険料の引き上げなどから、可処分所得の伸び悩みが続いてきたことが原因である。
 岸田政権下で大幅に進んだ円安は輸出関連を中心とした企業収益の大幅な増加をもたらす一方、家計は物価高の悪影響に苦しんできた。しかし、24年春闘の賃上げ率が33年ぶりの高水準となるなど、ここにきて企業部門の改善の好影響が家計部門に波及しつつある。
 賃金を中心に可処分所得が安定的に増えれば、個人消費の持続的な回復が期待できる。政府は少子化対策の財源として医療保険料に上乗せする支援金の徴収を予定しているが、個人消費が本格的な回復軌道に乗るまで、家計の負担増につながるような政策は避けるべきだ。
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 さいとう・たろう 1967年生まれ、千葉県出身。京都大教育学部卒。日本生命保険を経て、ニッセイ基礎研究所に入り、2019年より現職。専門は日本経済と雇用の分析。