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「運命共同体」として 中小賃上げ後押しを


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 政府が6月に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太方針」は、中小企業の賃上げを重要課題とした。物価上昇に負けない賃上げを実現するには、雇用の約7割を抱える中小企業の生産性向上が不可欠だ。中小企業の運命共同体とも言える地域金融機関も、中小企業の賃上げを後押しする責任を果たさねばならない。
 日本生産性本部によれば、日本の2022年の労働生産性は、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中30位。比較可能な1970年以降で最低の順位だった。
 他方、複雑な技術開発をする力を示す「経済複雑性指標」は2000年以降、20年以上も世界一だ。
 例えば、自動車は走行性、燃費、積載性、耐久性などをどの程度重視するのかによって開発の方向性は変わる。衣料品などの繊維素材も光沢度、ストレッチ性、色合いなど開発ポイントは多岐にわたる。
 確かに複雑な開発は、付加価値を生み出す源泉となる。だが、膨大な製造工程、部品が存在するということは、それだけ採算管理が難しく、赤字仕事を増やしやすいという弱点にもなり得る。
 ソフトウエア大手SAPジャパンの古澤昌宏インダストリーアドバイザーは「日本の多くの製造業は、調達部材や組立後の自社製品に原価情報がひも付いておらず、納期までに、注文通りの個数をつくるだけの『価格なき経営』です。これでは仕事を受注しても、どの製品がどれだけもうかるのか分かりません」と指摘する。
 売り上げを確保するために、見境なく仕事を受注しがちなのが中小企業の特徴の一つだ。
 企業再生支援の経験が豊富なブレイン・アンド・キャピタル・ソリューションズの黒澤祐一マネージングディレクターも「業績不振の企業は、ほぼ100%、商材ごとの採算可視化ができていない」と強調する。
 複雑な開発を担う中小企業の技術力は高い。だからこそ、商材ごとの採算管理は重要だ。中小企業の生産性向上には、利益率の高い商材を売れ筋に育て、損益を悪化させる問題商材を減らす改革が必要となる。
 地域金融機関は、中小企業の主力商材と問題商材の採算を可視化するサポートに力を入れるべきだろう。(共同通信編集委員・橋本卓典)