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USスチール買収阻止 日鉄計画 バイデン氏、行政命令へ 激戦州の労組票狙い 日鉄「適正な審査信じる」


USスチール買収阻止 日鉄計画 バイデン氏、行政命令へ 激戦州の労組票狙い 日鉄「適正な審査信じる」 日本製鉄による買収に賛同するUSスチールの従業員ら=4日、ピッツバーグ(AP共同)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 【ワシントン共同】バイデン米大統領が日本製鉄による鉄鋼大手USスチールの買収阻止へ最終調整に入ったことが4日、分かった。複数の欧米メディアが伝えた。近く買収禁止の行政命令を出す可能性があるという。安全保障上の懸念を理由とするとみられるが、11月の大統領選を前に激戦州の労働組合票を取り込む狙いがありそうだ。日鉄の大型買収計画は米大統領選に完全に巻き込まれる形となった。
 買収を巡っては全米鉄鋼労働組合(USW)が反対。共和党候補のトランプ前大統領は返り咲きを果たせば買収を阻止すると明言。バイデン氏は民主党候補のハリス副大統領を後押しするため、買収阻止の動きを明確にする考えとみられる。良好な同盟関係にある日本の企業活動に直接介入することになれば異例。
 日鉄は5日、投資によって「USスチールと米国の鉄鋼業界全体はより強固な基盤を築くことができる。米国政府により、法にのっとり、適正に審査されるものと強く信じている」とのコメントを発表した。
 ロイター通信などによると、買収を審査している対米外国投資委員会(CFIUS)は日鉄に対し、買収は米鉄鋼業に打撃を与え国家安保上のリスクをもたらすと8月末に書簡で伝えた。バイデン氏はCFIUSの勧告を受け命令を出すとみられる。
 USスチールは東部ペンシルベニア州に本社がある。民主党は伝統的に労組を支持基盤とするが、2016年の大統領選ではトランプ氏が同州で勝利し当選につなげた。20年にはバイデン氏が奪取。今回も激戦州の一つとされる。
 カービー大統領補佐官は4日の記者会見で「大統領は一貫している。米国の鉄鋼会社は米国の所有であるべきだと考えている」と説明。報道内容への言及は避けた。
 USスチールは4日の声明で、買収が成立しなければ「何千もの組合員の雇用を危険にさらし、米国の鉄鋼業が世界でより良い競争をする機会を奪う」とし、経営への打撃となると強調した。
 日本製鉄は5日、バイデン米大統領がUSスチール買収を阻止する準備を進めているとの米報道を受け、安全保障上の懸念などを審査している対米外国投資委員会(CFIUS)に関し「法にのっとり、適正に審査されると強く信じている」とのコメントを発表した。
 日鉄はCFIUSから「審査結果は受領していない」と明らかにした上で、これまで米政府に対し「買収に国家安全保障上の懸念がないことを伝えてきた」と説明した。

 対米外国投資委員会(CFIUS) 外国から米国企業への投資について、安全保障上の問題がないか審査する省庁横断の米機関。委員長は財務長官が務め、司法省や商務省、国防総省、国務省などの代表者らで構成する。問題があると判断した場合、CFIUSは当事者と協定を結ぶなどのほか、大統領に勧告した上で投資を禁じるといった判断を委ねることができる。