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消えたプリン、異例長期化 デジタル化の難しさ露呈 江崎グリコシステム障害


消えたプリン、異例長期化 デジタル化の難しさ露呈 江崎グリコシステム障害 システム障害で出荷停止となった主な冷蔵品(写真は江崎グリコ提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 江崎グリコのシステム障害で「プッチンプリン」をはじめとした定番商品が店頭から姿を消した。順次再開したものの、発生から5カ月たった今も全面再開の見通しは立たず、異例の長期化となった。新しい基幹システムの導入が引き起こした今回のトラブルは、デジタル化の難しさを示す教訓とも言えそうだ。
 「ようやく食べられる」「ついに復活」―。グリコが「Bigプッチンプリン」を4カ月ぶりに出荷した8月13日以降、交流サイト(SNS)には再開を待ちわびた消費者の投稿が相次いだ。
 障害は4月3日、生産や物流、会計を一元管理するため、独ソフトウエア大手SAP社製の基幹システムを刷新した際に発生。システム上と物流センターにある実際の在庫数が一致しない状況に陥った。開発にコンサルティング大手のデロイトトーマツ系が参画。投資額は約340億円と巨額で、当初予定から約1年遅れての導入だった。
 常温や冷凍品はデータを修正しながら出荷を継続したが、冷蔵品は取引先から受注後に即時出荷するため対応不能に。計79品目が出荷停止に追い込まれた。システム改修は終了し6月以降段階的に出荷しているが、物流センターが急な再開に対応が難しく完全には回復していない。
 出荷停止の影響は大きく、2024年6月中間連結決算の純利益は、前年同期比53・1%減の36億円に落ち込んだ。高橋真一常務執行役員は出荷停止を陳謝し「再開時には通常より何倍もの供給が必要で、倉庫やトラックも追い付かない」と説明する。
 グリコは「障害に至った要因は検証中」と説明しており、問題の原因ははっきりしない。大手食品メーカーの関係者は「グリコの出荷先は全国チェーンのスーパーから地場の小売りまで多岐にわたる。いざ再開するとなった時にどこかを優先するわけにはいかない」と指摘。「再び失敗できないというプレッシャーも長期化の背景にあるのでは」と推察した。
 基幹システムの更新は多くの日本企業が抱える課題だ。富士キメラ総研の調べでは、システムを含む国内のデジタルトランスフォーメーション(DX)への投資額は28年度に6兆8730億円に膨らみ、23年度の約1・7倍になる見通しだ。
 日本の企業は基幹システムに自社独自の変更を加えることが多いとされる。新たな基幹システムに加えた変更が、トラブルが起きた際の対処を難しくするケースもあるという。
 国立情報学研究所の佐藤一郎教授(情報学)は「企業の業務をシステム側に合わせていく必要がある」との考えを示した上で「経営者がデジタル化で目指す将来像を明確にすることが、円滑にDXを進める第一歩だ」と強調した。