旧ビッグモーター(BM)の問題では、故意に車を傷つけて保険金を請求するといった不正行為を損害保険各社が長年にわたって見逃し、自動車保険制度の根幹を揺るがす事態に発展した。顧客の被害回復に向けた損保各社の検証作業は開始から1年以上たった現在も続く。担当者は「2度はない」と、目を皿のようにして膨大な量の資料と向き合っている。
東京都内の三井住友海上火災保険の本社では、交通事故などによる車両の損害を調査するアジャスターのベテランたちが全国から集まり、BMが実施した車両修理の再調査を進めている。1件当たり30枚程度の画像から、修理を実施しているように見せかけたり、リサイクルの部品を新品と偽ったりした不正の痕跡を探す。2018年4月以降の約5万件が対象で、23年8月の開始から延べ400人超が従事した。
BMの修理工程は一見すると通常の作業ばかりで「その過程で不正が起きるという意識が薄かった」(アジャスター)のが実情という。不正があったかどうかは、車種ごとの部品の特徴などを踏まえつつ慎重に判定する必要があり、1日の処理件数は経験豊富な人でも10件に満たない。
三井住友海上の損害サポート業務部の磯川時隆部長は「時間はかかっても、顧客にきちんと説明できるような点検が必要だ」と説明する。
ただ被害の確定には損保の再調査に加え、BMから訴訟対応などを引き継いだ「BALM(バーム)」による確認作業も必要になる。三井住友海上を含む損保大手4社による再調査の対象件数は計約23万6千件に上るが、7月中旬時点ではバーム側による確認まで全て終了した件数は1700件弱にとどまっている。
こうした中、バームは7月に突然「不適切行為による損傷かどうかを判断できないケースも相当数ある」などとして確認作業の取りやめを発表。一方的な通告に、損保大手のある幹部は「バームの身勝手な姿勢は看過できない」と憤った。問題解決への道筋にはなお不透明感が漂っている。
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被害回復へ各社検証続く BM不正 膨大な資料と向き合う
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琉球新報朝刊