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日鉄、巨額買収容認は不透明 労組反対、同業の反発警戒


日鉄、巨額買収容認は不透明 労組反対、同業の反発警戒 日本製鉄のUSスチール買収を巡る構図
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 日本製鉄のUSスチール買収可否を巡る米政権の判断が大統領選後にずれ込む見通しとなった。買収阻止の大統領命令はいったん避けられたが、巨額買収が容認されるかどうかは不透明だ。日鉄は、政治問題化を招いた全米鉄鋼労働組合(USW)の頑強な反発を米同業クリーブランド・クリフスが後押しする構図とみて警戒を強める。
 「雇用も維持すると約束しているのになぜ交渉に乗らないのか」。日鉄幹部はUSWのかたくなな反対に苦渋の表情を浮かべる。11日には誠実な対応姿勢を示すため過去にやりとりしたメールを開示する異例の措置にも踏み切った。
 USWは昨年12月の買収計画公表で事前連絡がなかったなどと問題視し、日鉄への不信感が鮮明だ。米国の鉄鋼生産や雇用が脅かされると唱え続けている。デービッド・マッコール会長は5月、日鉄側へのメールで「USスチールと手を携えてUSWをおとしめている」と強く非難した。
 USWの反対を勢いづけていると日鉄がみるのが、ライバルの事業拡大を避けたいクリフスだ。USWに入るクリフス従業員はUSスチールの約1万人を上回る。クリフスは米政権による買収阻止方針を支持する声明も公表している。
 USスチール従業員には雇用にプラスになるとみて買収に賛成する向きもある。日鉄がUSスチールへの投資を次々と表明しているためだ。従業員のうちUSWに入るのも半数程度にとどまる。USスチールは中国や欧州の同業との競争激化を背景に経営が低迷。独占禁止法上の問題などを検討し、最終的に日鉄による買収提案を受け入れた経緯がある。
 「(買収が成立しなければ)投資はしない。資金がない」。USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)は今月4日、米メディアにこう語り、米東部ペンシルベニア州のモンバレー製鉄所をはじめとする老朽化した工場の閉鎖や、同州にある本社移転の可能性に言及した。施設が老朽化する中、USスチール経営陣にとって日鉄の資金確保は火急の課題となっている。「これほど良い取引が成立しないことは想像できない」。ブリット氏は17日、中西部ミシガン州デトロイトで記者団にこう強調し、買収成立への意欲を改めて強調した。米労働者や世論の支持を拡大するため、日鉄とUSスチールの必死の訴えが続く。