日本政策金融公庫(日本公庫)が農林水産物や食品の輸出支援で2023年度に行った関連融資額が前年度比25・3%増の816億円となり、集計を始めた16年度以降で最多だったことが23日、分かった。政府の輸出戦略を後押しする新たな融資制度を導入したことで、輸出増を目指す事業者の資金需要に弾みがついた。買い付けを担当する海外のバイヤーとの商談を仲介する事業に力を入れたのも奏功した。
政府は農林水産業の活性化を狙って農林水産物や食品の輸出拡大に力を入れているが、輸出するには生産設備を各国・地域の衛生基準に対応させる必要があり、多額の資金がかかる。そこで、日本公庫が22年10月に新融資制度を創設。国が輸出計画を認定した事業者に対し、設備や運転資金の自己負担額のうち8割を限度に貸し付ける。生産者だけでなく、食品加工や流通の事業者にも対象を広げたのが特徴だ。
商談仲介事業の柱が06年度から主催する「アグリフードEXPO(エキスポ)」で、23年8月に開催した際は465社が出展。海外からバイヤー19社を招き、輸出に関して1600件超の商談が行われた。24年8月の開催時は出展企業が588社、海外バイヤーは30社と規模を拡大。輸出関連の商談も1800件超に増えた。出展した鹿児島堀口製茶(鹿児島県志布志市)の堀口大輔社長は「より高級な製品の開発を進め、海外展開の幅を広げたい」と意気込んだ。
日本公庫の農林水産事業本部の吉永俊雄特別参与は「人口減で国内市場が縮小する中、海外に飛び出すきっかけをつくりたい」と話す。
農林水産省によると、23年の農林水産物や食品の輸出額は前年比2・8%増の1兆4541億円。品目別では日本酒、牛肉、緑茶、ホタテなどが多く、国・地域別では中国、香港、米国がベスト3だった。中国は東京電力福島第1原発処理水の放出に反発し、日本産水産物の輸入を停止したが、日本の輸出先では引き続きトップだった。
政府は農林水産物と食品の輸出額を25年に2兆円、30年までに5兆円とする目標を掲げている。
<用語> 農林水産物の輸出戦略 日本政府は、農林水産物や食品の輸出拡大により、事業者の収益性を高める戦略を掲げる。農政の方針を示す食料・農業・農村基本法を今年5月に改正し、農産物の輸出促進を盛り込んだ。輸出先の要望に応じた商品開発や販路開拓の支援を進める。海外の和食ブームや健康志向の広がりも追い風になっている。