再び増えてきた中国人訪日客の旅行スタイルが変化している。新型コロナウイルス禍の前に見られた「爆買い」は縮小し、宿泊や食事など体験を重視する傾向だ。消費効果を地方にまで広げるには、こうした変化への対応と直行便の回復が鍵を握る。
オーダーメード
「中国人客はアジアの中でも単価の高い部屋に泊まり、宿泊日数が多い。食事はおいしいものにお金をかける傾向が強くなっている印象だ」。神奈川県箱根町の温泉旅館経営者は、中国人客の回復を歓迎した。
観光庁調査によると、2024年4~6月の中国人客1人当たりの消費額は28万6千円で、コロナ前の19年同期から6万2千円増えた。このうち買い物代の割合は49%。爆買いが盛んだった15年同期の61%、19年同期の55%から減少している。代わりに伸びているのが宿泊費や飲食費だ。
政府観光局によると、19年に70%だった個人旅行は23年に96%まで伸び、リピーターの割合も増えた。多くが交流サイト(SNS)を使い、自分好みの旅行情報を集めている。旅行会社や航空会社のライブ配信を見て旅行商品を選ぶ若者も増えた。担当者は「数十人が大型バスで免税店に乗り付ける旅行は過去の話。少人数で満足度を高めるオーダーメード型が主流になった」と説明する。
東京集中
韓国や米国などからの訪日客が19年水準を超える中、中国の戻りが鈍かったのは直行便の回復遅れが要因だ。厳しい新型コロナ水際対策が尾を引き、今年8月でも1週間当たりの便数は19年当時の70%台。観光庁幹部は「往来拡大には、地方空港で一層の便数回復が欠かせない」と語る。
回復の障壁となっているのは、空港で機体の誘導や荷物の積み降ろしなどを担う地上職員の確保。国土交通省は「コロナ禍の離職を補う人手は集まっている」と説明するが、充足状況は空港によってばらつきがある。
鹿児島空港は7月、約4年半ぶりに上海便再開にこぎ着けた。「再開がやっとで、さらなる増便には人手が足りない。新規事業者の参入を働きかけている」と県担当者。片や羽田空港は19年の便数を上回り、中国人客の宿泊先は東京集中が進む。
政府関係者は「中国からの訪日人気は根強い。地方への訪問を促すPRをしているが、肝心の移動手段が追い付いていない」と話し、てこ入れを急ぐ考えを示した。
<用語> 中国人訪日客 日本を訪れた中国人客は新型コロナウイルス感染拡大前の2019年に年間959万人。訪日客全体の3割を占め、国・地域別で最多だった。コロナ拡大後は中国政府の出入国制限で激減し、22年は19万人。23年は日本への団体旅行が8月に解禁され243万人。24年はさらに回復が進み、7~8月は2カ月連続で国・地域別のトップだった。