自民党の石破茂新総裁は派閥裏金事件を受けた「政治とカネ」問題への対応や、憲法改正など難題に挑む。日米地位協定の見直し、「防災省」創設といった難しい交渉や調整が必要なテーマもあり、実行力が問われる。政策課題を整理した。
地位協定改定、難航も 外交・安全保障
石破氏は総裁選で、米軍の法的な特権を認めた日米地位協定について「見直しに着手する」と改定に意欲を示した。在日米軍基地が集中する沖縄県などが長年、要望している課題だが、政府は「運用の改善」でかわしてきた経緯がある。本格的に米側と交渉する場合、難航も予想される。
地位協定の見直しは、那覇市での演説会で言及。防衛庁長官や防衛相を歴任した経験から「どれほど難しいか承知している」とした上で、米軍基地を自衛隊との共同管理にすべきだと訴えた。
ただ、米側も地位協定には不満を持っているとされ、交渉入りすれば逆に要求を突きつけられる可能性もあるという。防衛省幹部は「改定はパンドラの箱だ。開けない方がいい」と指摘する。
石破氏は総裁選公約に「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」として、地域の安全保障体制構築を掲げた。加盟国に対する攻撃を自国への攻撃とみなし、集団的自衛権を発動する仕組みだ。
集団的自衛権は安倍政権が憲法解釈を変更して解禁したものの、日本の存立が脅かされる危機に限定した。その範囲を超えるものなのか、丁寧な説明が求められそうだ。
在任中に改憲発議 憲法改正
石破氏は総裁選の政策集で、自民の党是である憲法改正に関し「首相在任中の発議を実現する」と明記した。9条への自衛隊明記や緊急事態条項の新設など党改憲4項目は「全てが重要」との立場だ。衆院憲法審査会では、自民を含む5党派の改憲勢力が、優先課題として緊急事態条項に絞って協議を進めた経緯がある。方針転換となれば仕切り直しは避けられず、進展は見通せない。
自民は6月の衆院憲法審で、緊急事態時の国会議員任期延長に関する論点整理を提示した。他党の賛同が得やすいとの判断から先行させたものの、自民内には9条こそが「改憲の本丸」との意見が根強い。一方で9条改正に踏み込むとなると、「平和の党」を掲げる公明党との調整は難航が予想され、立憲民主党も反発を強めるのは必至だ。
自民は今月2日の憲法改正実現本部で、現行の9条1、2項を維持した上で、自衛隊を追記する案を軸とする論点整理を了承した。ただ石破氏は戦力不保持を定めた「2項削除」が長年の持論だ。自衛隊明記に賛成するとしつつ「これで終わりではない」と主張した。今後の議論で火種となる可能性がある。
政治資金、透明化努力 裏金対応
石破氏が総裁選公約の柱に位置付けたのが政治改革だ。派閥裏金事件を受け、政治資金の透明性向上に最大限努力し「ルールを守るための体制を確立する」と約束した。「政治とカネ」問題に対する国民の不信感は今なお根強い。党再生に向け、具体策を実行できるかどうかが鍵となる。
総裁選では、政党のガバナンス(組織統治)向上を目指す「政党法」制定を主張。政治資金収支報告書の不記載について説明がつかない資金は「納税してしかるべしだ」と訴えた。
一方、事件の再調査には言及せず「新事実が判明すれば必要な対応を検討する」と述べるにとどめた。他の候補者が打ち出した政策活動費の廃止は必要ないとの立場で「透明性を高めることが重要だ」と指摘した。
立候補表明した際、裏金議員は次期衆院選の公認に「ふさわしいか徹底的に議論すべきだ」と発言したが、翌日には「新体制で決める」と修正した。裏金事件で処分された旧安倍派議員を推薦人には選ばなかったが、支援を取り付けたいとの配慮がにじんだ。