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与党大敗と日銀 深谷 幸司 マーケット・リスク・ アドバイザリーフェロー 緩和修正の流れ、不変 ぶれずに市場と対話を


与党大敗と日銀 深谷 幸司 マーケット・リスク・ アドバイザリーフェロー 緩和修正の流れ、不変 ぶれずに市場と対話を マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)フェローの深谷幸司氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 衆院選で与党が大敗し、政権の枠組みや政策の方向性が今後どうなるのか、まだはっきりしない。日銀が新たな政権と向き合う際に腐心する場面も増えそうだが、今のところ金融政策に大きな影響はないと考える。大規模な金融緩和策を修正していく流れは不変だろう。
 岸田文雄前首相と石破茂首相はともに、大規模緩和を柱とした故安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」から距離を置く方向にかじを切った。具体的には、経済成長を軸にして分配に目配りしつつ、地方経済も重視していく流れとなった。
 アベノミクスは金融緩和と円安により大企業製造業の業績向上をエンジンとし、生産段階の川上から販売段階の川下へ好影響が及ぶトリクルダウンを企図した。残念ながら、それはあまり機能せず、極端な円安や物価高によって大企業と中小企業の格差が拡大し、家計部門内でも二極化が進んで弊害が目立つ。
 ここ数年、弊害を是正しようという政治の動きがみてとれる。これと整合的な金融政策は大規模緩和の主軸だったマイナス金利の解除や追加利上げなど緩和策のさらなる修正、円安是正だ。換言すれば、日銀に対して緩和圧力をかけず、政策の自由度を高める流れである。
 ただ、衆院選前には石破首相らから早期の追加利上げにブレーキをかけるような発言もみられた。自民党内の融和を優先し、アベノミクス派に配慮したとみられる。
 与党大敗で金融政策にどのような影響が及ぶのか見極める必要はあるものの、与党内でアベノミクスの修正方針に変化がなければ、日銀の緩和修正に対して中立的に作用するだろう。
 衆院選で躍進した最大野党の立憲民主党は、日銀の物価安定目標を今の「2%」から「0%超」に変更すると主張している。立民の発言力が増し、与党が配慮せざるを得なくなれば、追加利上げへの追い風となり、円安の抑制にもつながりそうだ。
 このような政治の動きが想定されつつも、いま一度、政府と日銀のあるべき関係を確認しておく必要がある。
 通常、政治サイドから緩和圧力がかかりやすい。景気浮揚が支持率向上につながるためだ。金融政策は政府の経済運営と整合的であるべきだが、それ以前に中央銀行の独立性維持というグローバルなコンセンサスがある。中銀の役割は本来、景気や物価の波をならし、安定的に経済を成長させていくことであり、循環的な景気変動には柔軟に対処していくべきだ。
 成長戦略の策定や構造問題への対応は政治の仕事となる。デフレが構造問題だと言うならば、日銀に過度な負担を負わせるべきではない。
 目下、グローバルには中長期的なインフレが懸念されている。このような状況に適時適切に対応するため、政府と日銀の役割を定めた共同声明の内容を見直し、日銀の独立性を強化する必要があるのではないか。
 その上で、日銀は市場との対話を政治への忖度(そんたく)なしに、ぶれずに行っていくべきだ。10月31日の金融政策決定会合で、政策金利の維持を決めたのは想定内だった。市場の安定を図るため、緩和修正の道筋を示す必要がある。ただ修正のペースは景気や物価の動向次第で変わり得るだけに、所与のものとして明示しすぎないのが望ましい。