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「何で人間は戦争をするかねー」 戦争マラリアを児童小説に 高橋喜和さん(77)石垣市出身・長野県在住


「何で人間は戦争をするかねー」 戦争マラリアを児童小説に 高橋喜和さん(77)石垣市出身・長野県在住 著書「南へ飛んだポー」を手にする高橋喜和さん(本人提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 当銘 千絵

 石垣市出身で長野県安曇野市在住の高橋喜和さん(77)がこのほど、沖縄戦末期の八重山で、日本軍の命令により疎開させられた多くの住民が命を落とした「戦争マラリア」の悲劇を題材にした児童小説「南へ飛んだポー」(自制作本)を書き上げた。7月21日、安曇野市内で初の朗読会を開く。高橋さんは、政府が「中国の脅威」を理由に石垣島などで自衛隊の配備を強化していることを危惧し、「作品を通して平和の在り方を考えてもらいたい」と訴える。

 小説は安曇野市を舞台に、けがをしたキジバトの「ポー」と、ポーを助けた地元の小学生「真央」、波照間島生まれの旅人「源じいさん」の交流を描く。口を閉ざしていた源じいさんが、あることがきっかけで、家族を戦争マラリアで亡くしたことなど、これまで内に秘めていた悲しみを打ち明け始める展開だ。

 波照間島では太平洋戦争末期の1945年3月、軍の命令で住民1590人が疎開し西表島南風見田海岸で共同生活をするが、学童66人、乳幼児を含む住民20人余りがマラリアに罹患(りかん)して犠牲になった。

 同年8月には波照間国民学校の識名信升(しんしょう)校長(故人)の八重山守備隊への直訴で全島民が帰島したが、その後も「マラリア地獄」が続き、400人以上が亡くなった。同様の悲劇は八重山諸島全体で起き、「もう一つの沖縄戦」とも言われている。

 高橋さんが作中、最もこだわったのは、沖縄へ飛んだポーが、激戦の地、摩文仁の丘(糸満市)で琉球キジバトの「ピーズ」と会話する場面だ。ピーズの「何で人間は命がなくなる戦争をするかねー、意味がわからんさ」というせりふに、自身の思いを託した。高橋さんは「平和は武器ではなく、会話、対談、交渉で実現できると信じている。理想論に聞こえるかもしれないが、それを怠れば市民が再び戦争に巻き込まる。子どもたちを、いつか来た道に戻してはならない」と力を込める。

 沖縄ほどではないが、高橋さんが暮らす長野県でも近年は平和運動や憲法を守る会などの活動が盛んになっているという。いつ何時も、遠く離れた故郷・八重山を思っているという高橋さんは「戦争に再び向かおうとする政府の姿勢は黙認できないし、基地問題は沖縄だけの問題ではない。微力かもしれないが、自分のできることを続けていきたい」と述べた。

 小説は希望者に送料込み千円で配布する。問い合わせは高橋さん、電話090(4366)7182へ。

 (当銘千絵)