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夢はかなう 上條さなえ(児童文学作家、元埼玉県教育委員長) <未来へいっぽにほ>


夢はかなう 上條さなえ(児童文学作家、元埼玉県教育委員長) <未来へいっぽにほ> 上條さなえ
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 10歳の私の目の前に、スクリーンいっぱいに映された美しいコペンハーゲンの町並みが広がった。「なんて美しいところだろう、いつか行きたい」と夢見た。25年後、新聞社主催の童話コンクールで入選した。原稿用紙10枚の物語の正賞が、ヨーロッパ12日間の旅だった。幼い子がいた私は夫の協力を得て預け先を探すなど慌ただしい日を過ごし、旅程表を見たのは飛び立った飛行機の中だった。

 成田空港を出発して2日目、飛行機が朝霧けぶるコペンハーゲン国際空港に到着した時、私は「あっ」と気が付いた。10歳の日に抱いた夢がかなったことを。その経験があってから、私は言葉や文字の言霊を信じるようになった。願い続ければそこに言霊が生まれ、夢はかなうのだと。

 ことしの8月で沖縄に移住して10年目を迎えた。無知だった私は沖縄に暮らして初めて沖縄戦があり、沖縄が戦場だった事実を知った。私の母は夫を戦争で亡くしたから、口癖は「戦争さえなかったら」だった。不条理と悲惨さと絶望の状況を沖縄の人々は生き抜いた。私にできることは、全国の子どもたちに沖縄を舞台にした物語を届けることだと思った。

 講談社の編集者の方と何度も原稿を修正しながら書き上げたのが「月(るな)と珊瑚(さんご)」だった。この本は全国学校図書館協議会の課題図書に選定され、全国の学校図書室に配本された。私の夢は再びかなったのだ。

 これからも残された時間の中で沖縄を書き続けたい。そして、たくさんの子どもたちに「夢はかなうのだ」と伝えたい。それが本土に生まれた私の償いでもあると信じて。

上條さなえ かみじょう・さなえ

 小学校教員を経て1987年児童文学作家デビュー。著作は60冊。幼少期にホームレス同然の暮らしを送った体験記も出版。元埼玉県教育委員長。現在は沖縄在住。50年生まれ、東京都出身。