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保護者対応 学校外で 奈良・天理市に相談機関 教員負担減の鍵となるか


保護者対応 学校外で 奈良・天理市に相談機関 教員負担減の鍵となるか 保護者からの相談を受ける「子育て応援・相談センター」のスタッフ=5月、奈良県天理市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 保護者対応に疲弊する教職員の負担を減らそうと、奈良県天理市は4月、小中学校などの保護者対応を一元的に担う「子育て応援・相談センター」を設置した。学校外で最初の相談対応から福祉部門も併せた具体的な支援まで対応する取り組みは全国的に珍しいといい、働き方改善の鍵となるか注目される。
 市によると、2023年度に保護者対応への負担などが理由で休職・退職した教員は14人。昨年秋に実施したアンケートでは「日常業務で保護者対応を負担に感じている」と回答した教職員が小中学校で77.5%に上り、改革が急務だった。
 センターでは、学習面や生活面の不満や要望に対し元校長や元園長、心理士らが対応。市の福祉部門や顧問弁護士も協力し、家庭内暴力などの問題にも対処する。元小学校長のスタッフ島田裕司さん(68)は「まず聞いてほしい、という内容が多い」と語る。
 4月の開設以降、相談は約130件。いじめ、不登校、校則への疑問など多岐にわたる。学校に行き渋っていた子に対し、同じ建物にある不登校の子らが通う教室を紹介するなど、支援につないだケースもある。
 並河健市長は昨年11月の記者会見で「保護者を切り捨てるのではない」と強調。教員は保護者対応のプロではないとし、センター開設で「教員が子どもに向き合える時間的、精神的余裕を確保する」と意気込んだ。
 文部科学省によると、22年度に精神疾患で休職した公立学校の教員は6539人で過去最多。全国的にも保護者対応で悩む教員は少なくない。
 関東地方の小学校で働き始めたばかりの20代の女性教諭は、学級運営がうまくいかず悩んでいた頃、児童同士のトラブルに対する保護者からの苦情を機に心を病んだ。
 担当学級は授業中私語が多く、席を立ち廊下に走り出る児童もいた。先輩教員に助言を受け、工夫を重ねたが改善しなかった。情報共有のための保護者との電話や授業準備に追われ、帰宅は夜遅かった。
 そんな頃、ある児童が教室で私物を壊され、保護者から電話が来た。淡々としているが、怒りが伝わる態度にただ謝るしかできない。「心がポキッと折れた」と教諭。教育委員会などとの連携もなく、助けの求め方が分からなかった。
 適応障害と診断され、休職した。過酷な労働環境が当たり前だと考え「私って苦しいんだな、と気付いた時は遅かった」と振り返る。1年後に復職したが、苦情への不安は消えたわけではない。
 「直接保護者に対応すると、端的にではなく膨大な量で返ってくるのがしんどかった」と吐露。「天理市のように保護者との間にワンクッションが入っていたら、ありがたかった」と語った。