浜辺に1台のピアノ。その傍(そば)に佇(たたず)む黒いドレスの女性とピアノの上の少女。映画をご覧になったことがなくともそんなシュールなポスターを目にした方は多いだろう。30年を経ての公開だが、色あせないテーマと映像にくぎ付けになる。
19世紀半ば、父親の決めた嫁ぎ先に異を唱える術(すべ)もなく、未開の地ニュージーランドへ幼い娘と渡るエイダ。最初に「私は6歳で話すことをやめた」とナレーションが入るが、エイダのピアノは奏でることが言語であり感情の発露そのもの。
そのピアノを海辺に置き去りにする夫と、レッスンを条件にピアノを助けてくれる男。ピアノを中心に3人の三角関係は官能的な展開を見せていく。エイダの物言わぬ瞳は常に怒りを含み、「自分の人生を生きたい!」ともがきながらのたうちまわる。
今にも通じる女性の強さをホリー・ハンターは見事に演じ、ジェーン・カンピオン監督は同作でカンヌ映画祭パルムドールと66回アカデミー賞脚本賞を受賞。
(スターシアターズ・榮慶子)