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日常から物語 展開巧み 最強の一人芝居フェス番外編


日常から物語 展開巧み 最強の一人芝居フェス番外編 「そして、乳がでる」(平塚直隆脚本/田原雅之演出)を演じる金城太志=20日、那覇市銘苅のアトリエ銘苅ベース
この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子

 「最強の一人芝居フェスティバル」の沖縄版の10周年記念の番外編「INDEPENDENT Ex沖縄」が20、21日に那覇市銘苅のアトリエ銘苅ベースで開かれた。4人の演者が日常を入り口にサスペンス、ファンタジーへと展開する物語を巧みに演じ、観客は泣き笑いした。20日午後7時の公演を取材した。

 シアターテンカンパニーの金城太志は「そして、乳がでる」を披露した。妊娠させた彼女の父に結婚承諾のあいさつをしに行く男の物語だが、父を待っている間に当初考えていた計画はなし崩しに。結末は、彼女の父の「お前(男)を生んだのは俺だ」という驚くべき告白だった。多少の中だるみも感じたが、後半の急展開で観客を一気に引きつけ、けむに巻いた。

「ふれるものみな」(樋口ミユ脚本・演出)を演じる犬養憲子
「Too Late To Die」(二朗松田脚本・演出)を演じる亀山貴也
「ごとっ」(知花錦脚本/田原雅之演出)を演じる知花

 主催の「芝居屋いぬかい」の犬養憲子は、新作「ふれるものみな」を演じた。沖縄に移住し子を身ごもり、夫に逃げられた女が“師匠”と尊敬するのは義母のこと。義母には、手に触れたものに赤い花が咲くという秘密がある。女が夫を刺そうとした時にそれが義母から発動された。沖縄戦を生き延び、基地被害に悩まされ、多くの不条理を花に昇華させる義母。多くのおばぁや沖縄の本質を表したような演技と構成、うちなーぐちを中心にした温かなせりふ回しが、笑いと涙を誘った。脚本の樋口ミユは昨年大阪からの招聘(しょうへい)作品を手がけたことなどをきっかけに、犬養とつながった。企画10年で自身の“名刺代わり”になる芝居が増えたという犬養だが、沖縄の現状を深く、優しくえぐる本作もその一つになるだろう。

 シアターテンカンパニーの知花錦は、自身で脚本を務めた「ごとっ」を披露。付き合って3年のカップル。互いのずれと裏切りを「ごとっ」という音で表した。価値観も倫理観もどんどんひっくり返っていく展開が痛快で、追いつくために脳がフル回転した。

 締めは本拠地大阪からの招聘作品。亀山貴也が「Too Late To Die」を演じた。楽屋を舞台に、着替え中の舞台俳優同士の会話で劇を展開する。雑談が重要な物語を形作り、冒頭の殺害シーンの伏線回収につながっていく。緻密な脚本と亀山の巧みな演技が、一人芝居で見せる世界の豊かさを表した。

(田吹遥子)