「あんこ」が大好きで、特につぶあんに目がない。だから映画の中で徳江さん(樹木希林)が作るあんこに恋をした。あのどら焼き屋さんが近くにあったらと夢想したものだ。
2015年に公開されるや、数々の賞を受賞したので話題にもなったが、いま見ても古びない。人の世の残酷さも優しさも真摯(しんし)に描かれ、つながる心の尊さを映し出す。樹木希林と永瀬正敏の静かな演技に抱かれながら、ああ私たちは稀有(けう)な俳優を失ってしまったのだと喪失感も抱く。
現金なことこの上ないのは、初見の際にはセリフに感情がなさすぎと感じた希林の孫娘、内田伽羅の演技も、内気で自分に自信のないキャラなのだから、自然で好もしいと感じてしまうことか。見るこちら側も成長したのだろう。
今作は河瀬直美監督作品特集3本中の一本。続く「2つ目の窓」「玄牝(げんぴん)」も、ともに命と向き合い、つながれていく命の尊さを描いて秀逸。
(スターシアターズ・榮慶子)
◇シネマプラザハウス・8日公開