『旅する琉球・沖縄史』 歴史の実像、活き活きと


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『旅する琉球・沖縄史』真栄平房昭著 ボーダーインク・1800円+税

 海に囲まれた琉球・沖縄では、日常生活から海外交流まで、その歴史は旅とともにあった。本書は、長年、琉球史研究の最前線を担ってきた著者が、自らの研究のエッセンスをふんだんに盛り込みつつ、旅をキーワードにまとめたエッセイ集である。

 第1章「海の琉球史」では旅に出た琉球人が、2章「渡ってきた人・モノ」では逆に琉球への旅人が主役である。第3章「琉球史への旅」は著者による琉球人の旅の追体験がテーマ。第4章「琉球・沖縄史の風景」では、旅も含む歴史の諸相がスナップショット的に描かれる。

 これらの章では、数百年前の琉球人の実像が細部にわたって活(い)き活(い)きと紹介される。例えば中国への船旅でしばしば発生した海賊被害。著者の筆は、襲われ戦い生き延びるといった事件の「実況中継」にとどまらず、身ぐるみ剥がされた被害者の帰国後の借金や、その困窮ぶりに琉球社会がどのように手を差し伸べたのかという「後遺症」にまで迫っていく(ここが真栄平史学の醍醐味(だいごみ)である)。ほかにも訪中した夫の無事を祈る妻の琉歌、薩摩赴任中の息子に宛てた父親の手紙など、身近なトピックが数多く取り上げられている。

 またこれらのトピックを通じて、琉球が「世界」とどのように関わってきたのかも多角的に描き出す。例えば沖縄の珍味として知られる豆腐ようは、かつては陶磁器や茶とともに「唐土産(中国土産)」に名を連ねていた。それが徐々に琉球でも作られるようになったらしい。1816年に琉球に寄航したイギリス船にまつわる話も興味深い。イギリス人の地球儀を見た琉球の高官は、注意深く観察した上で、イギリスや琉球・日本・北京などの位置を尋ねたという。

 こうした歴史を経て、今、沖縄は「世界」とどのように向き合うべきなのか。5章「近現代の沖縄」では沖縄戦や基地問題の歴史を未来へ向けて語り継ぐ。現代を「旅する」著者の切実な祈りと想(おも)いが伝わってくる。
 (渡辺美季・東京大学准教授)

…………………………………………………………………………
真栄平 房昭 著
 まえひら・ふさあき 1956年那覇市生まれ。神戸女学院大学教授などを経て琉球大学教育学部教授。著書に「近世日本の海外情報」(共編著、岩田書院)、「新しい琉球史像」(共著、榕樹書林)、「列島の南と北」(編著、吉川弘文館)など。

旅する琉球・沖縄史
旅する琉球・沖縄史

posted with amazlet at 19.10.04
真栄平房昭
ボーダーインク
売り上げランキング: 219,077