『琉球の中世』 古琉球史像見直す好著


社会
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 本書は、昨年東京大学で開催されたシンポジウム「琉球の中世」をベースに座談会等を加えて編集・刊行したものである。考古学と文献史学双方の最新の知見を持ち寄り、旧来のグスク時代、古琉球時代(10世紀頃から1609年)像の再検討を図った刺激的な論集となっている。

次の3テーマを中心に構成されている。一つ目は、11~14世紀における琉球列島への移住・交易による社会的変容という論点である(池田榮史、瀬戸哲也)。グスク時代における外的インパクト、特に日本列島や九州からのヒトとモノの南下による影響を整理し、移住による食料生産(農耕)と定住(新たな集落形成)の問題を論じている。二つ目は、15世紀前半第一尚氏期の泊港と、その関連施設を分析したものである(黒嶋敏)。旧来、交易の拠点港としては、那覇港に関心と研究成果が集中してきた。それに対して、絵図史料(「琉球国図」)で旧来不明であった「飛羅加泊」の飛羅加(ひらか)を「坂中」(ひらなか、フィラナカ)樋川に比定し、外洋船にとって重要な真水が得られる港湾(泊港)の意義を全体的に分析し、今後の港湾史研究や第一尚氏政権論に一石を投じた論考となっている。三つ目は、沈船や船体考古資料を用い、「交易船構造の革新」という視点によって、東シナ海から南シナ海において展開した遠洋船の変容と関連させて琉球船を検討したものである(木村淳)。絵図や文字史料の限界を突破する成果であり、琉球の造船技術史を前進させる上で重要な手がかりを与える論考である。

 なお、書名の「琉球の中世」について言えば、厳密に定義されてはいない。「政治権力の分立と交易主体の分立」という視角から日本中世とは異なる琉球中世像を模索した試論に止まる。また、考古学の成果と泊港の「発見」、交易船構造論の3分野の成果がどのように連関しているかという点も課題を残している。しかし、本書の成果は、旧来の古琉球史像の見直しにつながる好著であることは間違いない。
 (豊見山和行・琉球大学教授)

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 中世学研究会 文献史学、考古学、民俗学、文学、生態学などさまざまな分野の研究者が協力し、主に日本の「中世」時代を中心に、科学としての「中世学」を構想する研究会。本書の執筆者は高橋慎一朗、池田榮史、瀬戸哲也、黒嶋敏、木村淳の5氏。

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