【一問一答】ロシア大統領経済ブレーン セルゲイ・グラジエフ氏が琉球新報に語ったこと


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セルゲイ・グラジエフ氏

 琉球新報の質問に対するセルゲイ・グラジエフ氏の回答は次の通り。

 ―日ロの経済関係をどう捉えているか。

 「非常に重要だ。両国の経済は補完的であり、それぞれの競争的アドバンテージ(優位性)を生かすことで、強力な相乗効果が実現できる。しかし現在、この協力の実現率は10%以下で、政府主導の小規模なプロジェクトが数多くあるが、必要なのは、先端技術産業や、高付加価値商品を作るシステマティックな長期的な大規模プロジェクトだ」

 「日本の外務省が過去70年にわたりロシアに突き付けている領土問題、これがもたらす政治的緊張が、両国の協力関係推進にとって大きな障害となっている。この主張を日本外交政策に植え付けたのは米国のGHQであり、今でも米国は日本政府がこの路線から逸脱しないように熱心に監視している。日本はワシントンが作り出したこの反ロシア路線から脱却する必要がある」

 「現在の日本は自主独立した強力な国家であり、自国の国益に沿った独自の外交を追求することができる。沖縄における米軍基地を含めた、米国による占領の負の遺産から抜け出すことだ」

 ―沖縄の可能性をどうみるか。

 「残念なことに沖縄はロシアにおいて、まず何よりも最大の米軍基地があること、全ての東アジア諸国にとって安全保障の大きな脅威の元になっていることで知られている。もちろん私は、沖縄が素晴らしい気候条件と希少な自然に恵まれ、先端医療と良質なサービスを提供する優れた観光レクリエーション・センターであることも知っている。もし効果的な広報を展開すれば、ロシアの観光客にとって人気スポットになることを疑わない」

 「玉城デニー知事との会談(6月)は非常に好印象を持てた。沖縄を愛する彼は、沖縄の社会経済の発展とその成果に誇りを持ち、ロシアとの協力関係発展について、とてもオープンだった」

 「私たちはロシアと日本との経済関係、人的交流の促進について話し合った。これは両国政府の支持の下で達成が可能だ。実際、昨年の極東経済フォーラムでは、安倍晋三首相が北東アジアにおける経済発展リング創設のアイデアを提唱したが、これはロシアのプーチン大統領が提唱する大ユーラシア・パートナーシップと完全に符号する」

 ―米中貿易戦争をどうみているか。

 「世界経済体制が転換期を迎えていることを示している。これまでにも世界は100年ごとにこのような転換期を経験してきた。生産・貿易・国際金融における変化、新経済国の興隆、これらが世界経済発展の新しいルール作りを必然的に求めている」

 「しかし、これまで世界経済を支配してきた国の指導者たちは、もはや時代遅れとなった体制を守ろうとし、新しい社会経済発展を抑え込もうと、あらゆる手段を使い、時には世界戦争も辞さない構えだ。100年前、英国はまさにこれを実行し、二つの世界大戦を引き起こした。その結果、英国の主要な競争相手だったロシア、ドイツ、日本、米国がお互いの経済を破壊し合った」

 「今、米国はこれと同じことを実行しており、世界経済支配を維持するために、世界に世界同時戦争を仕掛けている。しかし、この戦争において米国は負ける運命にある」

 ―なぜか。

 「英国が世界帝国の維持に失敗したのと同様、米国も、南・東アジアを拠点とする新しい世界経済体制の発展を止めることはできない。この地域で作られた体制は、戦略的プランニングと市場メカニズムを兼ね合わせたものであり、金融システムと経済の基本部門を国家が管理しつつ、民間企業が競争的部門で活躍、個人的所有権を尊重しながら公共の利益を優先させる。これを我々は『統合型』世界経済体制と呼ぶが、これは、ソ連と米国が中心国家として存在していた時の『帝国型』世界経済体制よりも、より効果的であることが証明された」

 ―世界経済の現状をどうみるか。

 「過度に集権的なソ連経済が崩壊した後、現在、米国の金融寡占経済が崩れつつある。これはアジア諸国と競争することができない。なぜなら現在の米国が主導する体制(規制システム)は、生産力の発展を目的としたものではなく、金融寡占による富の蓄積を目的としたものだからだ。米ドルの供給は4倍になったが、米国経済はほとんど成長がなく、その生活水準は低下さえしている」

 「半世紀前、ワシントンは日本経済の興隆を阻止するために、プラザホテルで日本政府に対して、通貨の引き下げと政府主導の経済振興策の停止を強制した。今、米国は同じことを中国に対してやろうとしている。しかし米国はこれに成功することはないだろう。先端技術に基づいた長期的な高度成長によって中国は既にGDP(国内総生産)とハイテク製品の輸出において世界トップクラスの地位を得た。インドも同様の発展システムを民主的な政治体制の中で作り上げ、力強いブレークスルーを達成している」

 ―世界経済の見通しは。

 「今、米国は世界同時戦争を展開している。中国とは貿易戦争を、ロシアとは金融部門で、中東では軍事紛争をエスカレートさせ、欧州とラテンアメリカに対してはカラー革命とクーデターを試みている。しかし米国に勝ち目はない。この結論は拙書『米国が開始して負ける最新世界戦争』に詳しく書いたが、世界経済発展の長期的な法則によって説明することができる」

 「世界は今、新しい世界経済体制に移行しつつある。今までの、米国金融寡占資本が主導したグローバリゼーション・イデオロギーに基づく強制的な世界統合から、国際法と各国の主権・文化・経済アイデンティティーを尊重した、自発的な協力による相互利益に基づいた新しい体制に取って代わる」
 (聞き手 新垣毅)