【記者解説】沖縄の米軍基地問題が北方領土問題とリンク ロシアの認識の背景にあるのは


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 東アジア経済情勢の鍵を握るセルゲイ・グラジエフ氏が日ロの経済協力の今後について、北方領土問題に絡むロシアの安全保障を重視する考えを示す中で沖縄の米軍基地に言及したことは、北方領土問題と沖縄の基地問題が強くリンクしていることを鮮明にした。辺野古新基地建設問題を取り上げ、ロシアに近い日本国内で米軍施設が建設される可能性に懸念を示したプーチン・ロシア大統領と認識を一つにしている。沖縄の基地問題が北方領土問題や日ロ平和条約締結交渉に影響を与えていることが改めて浮き彫りになった。

 これらの認識の背景には、日本の対米従属姿勢に対するロシア側の強い不満がある。安倍晋三首相は2016年に8項目の対ロ経済協力案を打ち出し、昨年11月には従来の北方四島の返還要求から、1956年の日ソ共同宣言に基づく歯舞群島、色丹島の2島返還による平和条約締結へ大きくかじを切った。

 しかし、日本の各地で沖縄のように米軍基地が建設されることを懸念するロシア側は、納得のいく「安全」の確約を平和条約などの文書に明記するよう要求。日本側は日米安保条約などを理由に拒否したため、交渉は事実上、暗礁に乗り上げている。

 北方領土問題や平和条約交渉が解決に向けて進まないのは、いわば日本の対米従属姿勢の“つけ”とも言える。その姿勢を改め、自主独立性の高い対米外交を行わない限り、日ロの経済連携も入り口でつまずくというのがグラジエフ氏の見解だ。

 事態は一層悪化している。米国には、2年以内に沖縄をはじめ北海道を含む本土に中距離ミサイルを配備する計画がある。ロシア側はこれを「脅威」と位置付け、配備されれば、北方領土、平和条約交渉は白紙に戻す構えだ。モルグロフ外務次官は、米国が日本に配備すれば、ロシアの安全保障の脅威となり「日ロ平和条約締結の新たな障害になる」とロシア通信に述べ、警告している。

 日本は今後、対米従属から脱却した外交に転換するのか。それとも、米国の計画を容認し、沖縄などの中距離ミサイル配備地や北方領土、経済分野を含めた日ロ関係を犠牲にするのか。岐路に立たされている。
 (新垣毅)