「あらゆる手段で辺野古に基地を造らせない。その第一歩だ」。知事の翁長雄志は2015年9月14日、県庁で記者会見し、米軍普天間飛行場の辺野古移設に向けた埋め立て承認を取り消す意向を表明した。承認の過程に瑕疵(かし)を認める報告書を7月にまとめた第三者委員会の判断を重視し「承認には取り消しうべき瑕疵がある」と述べた。
防衛相の中谷元は9月18日の閣議後会見で「埋め立て承認に何ら瑕疵はない。取り消すことは違法だ」と述べた。県は10月13日に承認を取り消したが、沖縄防衛局は国土交通相に承認取り消しの効力を止める「執行停止」を申請した。同局は一般私人に対する不利益な行政処分からの救済を目的とした行政不服審査制度を利用し、自らを「私人と同様の立場」と主張した。承認取り消しの無効化を求める審査請求の裁決まで、取り消しの効力を止めるよう求めた。
国交相の石井啓一は同27日、知事に代わって取り消しを撤回する「代執行」手続きを開始。28日に執行停止を決定した上で、沖縄防衛局が29日に埋め立て本体に着工した。
県は11月2日、執行停止は違法だとして国地方係争処理委員会に審査を申し出た。国交相は、代執行手続きで知事が承認取り消しに対する是正の勧告・指示を拒否したとして、11月17日に代執行訴訟を福岡高裁那覇支部に提起した。
一方で県は国交相の執行停止に対する抗告訴訟を提起。三つの訴訟、審査が並行する事態となった。
16年2月15日に開かれた代執行訴訟の口頭弁論で、雄志は沖縄に基地が押し付けられてきた歴史や新基地建設が強行される現状について「国民としての自由と平等がないがしろにされてきた」と述べた。裁判所に「子や孫が勇気と誇りを持って生きるための慎重な判断を」と訴えた。
国側の代理人は雄志に対して再三、司法判断に「従うか」と質問した。雄志は「最高裁で敗訴した場合には従う」と応えた。
国と県は16年3月、国が訴えを取り下げ、工事を中断して問題を再協議するなどの内容で和解した。この間に県が提起していた二つの訴訟は取り下げた。
しかし国は4カ月後、承認取り消しを巡って県の不作為に対する違法確認訴訟を福岡高裁那覇支部に提起。16年12月、最高裁で県の敗訴が確定した。
副知事だった安慶田光男は「裁判もだめなら政治闘争しかない。知事に『辺野古で一緒に座り込みましょう。私が逮捕でもされればヤマトゥンチューも気づくんじゃないか』と話したこともある。知事は何も言わず聞いていた」と振り返った。
(敬称略)
(宮城隆尋)