『希望はいつも当たり前の言葉で語られる』 書くことで寄り添う決意


社会
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『希望はいつも当たり前の言葉で語られる』白井明大著 草思社・1540円

 沖縄で暮らす詩人の白井明大さんが、これまで出会った人々からもらった大切な言葉を紡いだエッセー集。「焦らず、着実に」「好きを大事に」など“当たり前の言葉”の主は家族や上司、コンビニの店員などさまざまで舞台は、司法浪人やコピーライターなどを経て詩人になった著者の、何気ない日常だ。

 周りの人のふとした言葉に素直に耳を傾け、少しずつ前に進む姿勢に引き込まれた。詩を書く時、人にバカにされないかと不安になったり、子育てや家事の分担に関し夫婦間でもめたり。誰にでも覚えのあるような暮らしの一コマ一コマは尊く、いとおしい。そんな中で手にした言葉の数々だから、すっと心に入ってくる。

 一方、言葉を発することへのおそれや、言葉との格闘も率直につづられる。著者はある編集者との会話で「書いたものには責任を取るべきだ」「自分の発言で起きた出来事は、それが何であれ引き受けるべきです」と言って、こう返される。

 「そんなことをしても、相手にとっては何の埋め合わせにもなりません」「責任はとれない」

 自分が発した言葉によって誰かが傷ついたとしても、言葉を取り消すことはできない。そういう事実も受け入れて書くべきではないか、と覚悟を突きつけられたという。また、東日本大震災の後、著者は数年間、詩を書けなくなった。被災して暮らしを奪われた人に、どんな言葉を手渡せばいいのかと悩む。

 彼を突き動かしたのは、表現し続ける人との出会いだった。ある画家に叱咤(しった)され、踊りながら言葉を発するダンサーに刺激を受け、「書くしかないのだ」という境地に至る。言葉の重みに苦しみながらも、ずっと言葉に支えられてきたからこそ、書くことで寄り添う、という決意を固めることができたのだろうと思う。

 SNSが普及し、誰でも情報を発信できる現在、人を攻撃し追い詰める言葉も瞬時に広がっていく。そんな中で、本書は言葉が誰かを柔らかく包み込む力を持っていることをあらためて示す。毎日を真剣に生きる、すべての人に贈りたい一冊だ。

 (與那覇裕子・ライター)

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 しらい・あけひろ 詩人。1970年東京生まれ、横浜育ち。2011年に沖縄へ移住。12年刊行の「日本の七十二候を楽しむ―旧暦のある暮らし―」が30万部のベストセラーになった。「生きようと生きるほうへ」が第25回丸山豊記念現代詩賞を受賞。著書多数。

希望はいつも当たり前の言葉で語られる
白井 明大
草思社
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