芸能・文化

『尚泰 最後の琉球王』 武力併合前後の琉球国王描く

『尚泰 最後の琉球王』川畑恵著 山川出版社・880円

 琉球国中山王・尚泰―。彼の生涯は、琉球が日本に武力併合されて亡国の道をたどる歴史である。琉球・沖縄史上、空前絶後の歴史大転換に遭遇し、文字通り劇的波乱に富んだ政治の渦中にありながら、最高権力者であった者の肉声と行動が、これほど闇のベールにおおわれた人物も珍しい。おそらく著者自身がそのことを誰よりも痛感したはずである。

 そこでこの書を読んで、改めて思ったことがある。尚泰が王位に就いた当時は、近代帝国主義国家によるアジア侵略の時代。しかし、彼が30歳になった1872年以後の、息詰まるような日本との政治攻防をみていると、尚円以来の帝王学は、その困難な舵取りをする際の政治技術として、「歎願(たんがん)」以外は蓄積されていなかったかにみえる。

 この点、著者は1879年の「廃藩置県」後の尚泰を、新たな資料も使って彼の日本語能力や社交性など、性格と教養の面からも接近して描く。人間の資質論としてはよく分かるが、しかし、尚泰は痩せても枯れても琉球国家の歴史と存立を一身に凝縮した第19代の琉球国王であった。摂政や三司官たちを統率する知力と胆力の弱さ、加えて日本の意図と内情分析にたけた人材と組織の欠如が、この時期にあって一気に露呈し、そこを突かれたといってもよい。270年もの島津時代の教訓は琉球人に血肉化されず、ここという肝心なとき、ヤマト認識の甘さが恐ろしい報いとなって身に返ったことになる。

 ともあれ、明治政府の政治家・官僚の深謀遠慮、次々と繰り出す策略と威嚇・圧力の布石に、後手(ごて)の連続となった尚泰の治世。お世辞にも剛腕の傑物とは言えないが、思うに苦悶(くもん)と慚愧(ざんき)のうちに死んだろう彼の日本人観がどうだったのか、手にとるように分かる気がする。というのも、その後の140年がいかなる歴史だったかを知る沖縄人なら、誰もが必ずや忸怩(じくじ)たる思いで胸糞(むなくそ)が悪くなるからである。まったく情けない次第だが、その意味で、この評伝は私たちにただならぬことを教える。

(伊佐眞一・沖縄近現代史家)

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 かわばた・めぐむ 1964年生まれ。日本近代史。宮内庁書陵部編修課主任研究官。主な論文に「沖縄創県から初期県政へ」「琉球処分研究を振り返る-1950年代~70年代を中心に-」「国境の画定」など。

 

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