〈重荷を負うて道を行く 翁長雄志の軌跡〉52 第9部 子の貧困対策に奔走


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県子どもの貧困対策に関する検討会から提言書を受け取る翁長雄志=2015年11月2日

 翁長雄志が知事として取り組んだ重要施策には米軍基地問題のほかに、子どもの貧困対策があった。対策を総合的に進める「県子どもの貧困対策推進計画(仮称)」策定に向け、県庁内で「県子どもの貧困対策推進会議」を組織し、議長となった。識者らで構成する「県子どもの貧困対策に関する検討会」も設立し、課題を検討した。

 県は子どもの貧困に関する調査を進め、2016年1月に結果を発表した。県内の子どもの貧困率は29・9%で、全国の16・3%を大きく上回った。経済的な理由で過去1年間、必要な食料を買えないことがあった県内の子育て世帯はひとり親世帯で43%、両親がいる世帯でも25%に上った。自治体が都道府県別に貧困率の数値を出すのは全国で初めてだった。

 雄志は調査結果を受け「総合的な対策を子どものライフステージに沿って切れ目なく実施していくことが重要だ」とコメントした。国や市町村との連携を重視し「総合的な子どもの貧困対策を推進するとともに、広く県民の理解と協力を得て、全力で課題の解決に取り組んでいく」と述べている。

 子どもの貧困対策推進会議は16年3月16日、県がまとめた「県子どもの貧困対策計画」を承認した。34項目の数値目標を設定し、高校の中退率を全国平均並みに引き下げることや、無料塾などの学習支援を33市町村から全41市町村に拡大することなどを盛り込んだ。子どもの貧困を社会の問題と捉えて「克服すべき最重要課題」と位置付け、関係機関の連携態勢を構築することを明記した。

 16年6月17日、貧困対策を県民運動として取り組むため、県内105団体が参加して「沖縄子どもの未来県民会議」を発足させた。雄志は発足を前に自ら県内主要企業を訪ね、協力を求めた。県民会議は子どもの貧困率を30年までに「10%を目指す」とする目標を打ち出した。数値目標は、14年の経済協力開発機構(OECD)平均の13・3%などを参考に、全国平均の16・3%を下回る数値に設定した。

 県庁で開いた設立総会で会長に就いた雄志は「県民所得が低く、非正規労働が多いなど、さまざまな問題が関わる。経済、労働、福祉、教育が連携していく必要がある」と述べ、各界が参加する県民会議の意義を強調した。

 妻の樹子は「基地問題が大きくクローズアップされてきたが、翁長は子どもたちを巡る問題にも心を痛めてきた。貧困の連鎖を断ち切りたいと懸命だった」と振り返る。

(敬称略)
(宮城隆尋)