〈重荷を負うて道を行く 翁長雄志の軌跡〉53 米軍属殺人で政府に抗議


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遺棄現場で献花する翁長雄志=2016年6月1日、恩納村

 県警は2016年5月19日、米軍属の男を死体遺棄容疑で逮捕した。4月から行方が分からなくなっていた女性の遺体を、恩納村の雑木林に遺棄した疑いだった。その後、那覇地検は殺人、強姦致死などの罪で男を起訴した。

 米国、台湾訪問から帰国した知事の翁長雄志は5月20日、取材に応じた。「非人間的な事件が発生したことは、基地と隣り合わせの生活を余儀なくされている県民に大きな衝撃を与え、新たな不安を招く。断じて許されない」と述べた。

 事件・事故を受けた政府の対応を「当事者能力がない」と批判した。日米地位協定について「本土の人からすると不平等性を感じる機会がないんじゃないか。私たちが怒りを込めて話すと『何をそんなに怒っているの?』という形で、乖離(かいり)の問題は沖縄が抱えるジレンマだ。私はそれを『魂の飢餓感』と言っているが、すれ違いに終わる部分をどうしたら埋めていけるか。一つずつ前に進めていかないといけない」と述べた。

 政府は米国に抗議した。在沖米四軍調整官のローレンス・ニコルソンは副知事の安慶田光男に電話で謝罪した。23日に上京した雄志は首相の安倍晋三、官房長官の菅義偉と会談した。握手をせず、険しい表情で臨んだ雄志は「日米地位協定の下では、日本国の独立は神話だと言われますよ」と述べた。日米地位協定改定や日米首脳会談での働き掛けなど、再発防止に向けた具体策を示すよう求めた。

 しかし安倍は25日の日米首脳会談で、普天間飛行場の移設について「辺野古移設が唯一の解決策との立場は変わらない」と改めて米大統領のオバマに伝えた。オバマは「米軍関係者、米国民が恐ろしい事件を起こした責任を深く受け止めている」などと応じた。

 県議会は26日、抗議決議と意見書を全会一致で可決した。遺族への謝罪と補償だけでなく、県議会決議としては初めてとなる海兵隊の撤退要求に踏み込んだ。

 雄志は6月1日、恩納村の遺棄現場を訪れた。花を手向け「守ってあげられなくてごめんなさい。無念だったでしょう。二度と起こさないよう、先頭に立って頑張っていく」と声を掛けた。

 6月19日、那覇市で開かれた県民大会には6万5千人(主催者発表)が集まった。決議は「在沖米海兵隊の撤退、米軍基地の大幅な整理・縮小、県内移設によらない普天間飛行場の閉鎖・撤去」などを求めた。

 雄志は「政府は県民の怒りが限界に達しつつあること、これ以上の基地負担に県民の犠牲は許されないことを理解すべきだ」と述べた。那覇地裁は12月1日、男に無期懲役の判決を言い渡した。判決は18年に確定した。

(敬称略)
(宮城隆尋)