〈重荷を負うて道を行く 翁長雄志の軌跡〉55 知事会で基地問題訴え


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遺棄現場で献花する翁長雄志=2016年6月1日、恩納村

 知事の翁長雄志は米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設の問題と並行し、日米地位協定の見直しも日米両政府や国内世論に働き掛けた。

 全国知事会は2016年7月29日、雄志の働き掛けに応じて「米軍基地負担に関する研究会」を設置することを決めた。雄志は「沖縄の基地問題は一都道府県の問題ではなく、日本の民主主義と地方自治が問われている問題だと理解していただきたい。この問題をわがこととして真剣に考えていただけるようお願いしたい」と訴えた。

 16年11月21日、東京で研究会の初会合が開かれた。雄志は米軍基地があることで経済的、財政的に潤沢だとみられることが「誤解」だと訴えた。基地の存在を「沖縄経済発展の最大の阻害要因」だと指摘し「沖縄本島内には18%の基地がある。地元で18%の米軍基地があると想像してほしい」と述べた。

 研究会の座長には埼玉県知事の上田清司が就いた。メンバーには京都府知事で全国知事会会長山田啓二、米軍基地所在の都道府県でつくる渉外知事会会長の黒岩祐治(神奈川県知事)らが入った。

 雄志の日米地位協定や普天間問題に対する姿勢に関して、金秀グループ会長の呉屋守将は「政治家は言葉が武器だ。彼ほど言葉を自在に使って沖縄の立場を表現し、進むべき道を示した人はいない」と語る。その上で「論点整理の仕方が巧みだった。沖縄の負担は現状でもあまりに大きい。これ以上なぜ、という点は到底説明が付かず、許されない。ここに絞り込んだのがよかった」と話す。

 全国知事会は2年間の検討を踏まえ、18年7月27日に北海道で開いた会議で、日米地位協定の抜本改定を含む「米軍基地負担に関する提言」を全会一致で採択した。在日米軍に国内法を適用することや、自治体職員による基地への立ち入り権の保障などを求めた。

 日米地位協定の見直しについてはそれまで渉外知事会が政府に要請してきた。渉外知事会会長の黒岩は、全国知事会の提言について「米軍基地のない自治体も一緒になったもので、非常に意義深い。渉外知事会としても連携したい」と発言した。

 ただその全国知事会議に雄志は出席できなかった。18年4月に見つかった膵臓(すいぞう)がんのため、体調が悪化していた。手術を経て5月に退院して以降、転移や再発を抑える化学療法を続けて公務への本格復帰を目指していた。

 沖縄防衛局は辺野古への土砂投入を8月17日に開始すると県に通知していた。雄志は7月27日、県庁で記者会見して辺野古埋め立て承認を撤回する方針を表明し、30日に再び入院した。

(敬称略)
(宮城隆尋)