『奥武方言(おうくとぅば)』 シマの生活文化映す言葉


社会
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『奥武方言(おうくとぅば)』「奥武方言」編集委員会 奥武区自治会・4000円

 南城市玉城に属し、橋で結ばれる奥武島。14世紀中頃には人が暮らし始め、やがて子孫は繁栄し、明治末には「模範村」として知られるようになったという。その暮らしぶりは、明治40年の『琉球新報』に「偽りや飾り気がない。隣人を慈しみ、強い団結で、貧乏に泣き税金に苦しむ者もいない。心配事や楽しいことはお互いに分かち合って和やかな雰囲気が島中に満ちあふれている」とたたえられる。

 本書は、その奥武島の人々の「方言(くとぅば)」を、7年の歳月をかけて編んだ不朽の名作である。全体は7章からなり、第1章概説、第2章語彙(ごい)(7885語)、第3章ことわざ・慣用句(419句)、第4章会話編、第5章奥武島方言による民話など、第6章祈願における祈り言葉(グイス)、第7章資料編となっている。

 特筆すべきは、第1章5奥武方言概説で方言研究の伝統的な記述的研究の手法によって言語学的に奥武方言の価値と特徴を明らかにする一方、第2章語彙の見出し語と解説をみると、それは「生活文化誌」とも言うべき記述がなされ、地域や集団が日々の営みのなかで繰り返し受け継いできた言葉一つひとつにシマの息遣いが感じられる。

 「発刊の趣旨」には、「(1)消えつつあると共に変化しつつある奥武方言を記録し、後世に伝える。(2)児童・生徒をはじめ、あらゆる世代が奥武方言を学ぶ資料とする」とある。

 すなわち、本書の目的の一つは、常の生活の言葉である方言を学ぶことで、生活の具体相から象徴性を獲得する胚芽を見いだし、そこから言語と生活の二重の意味を探ることにあるのではないだろうか。第3章から第6章にかけては、50回を数える「奥武方言を語る会」の様子がうかがわれる記述となっており、今も昔と変わらぬ「和やかな雰囲気が島中に満ちあふれる」奥武人(おうんちゅ)の世界を豊かに伝えている。総ページ数648。そこに刻み込まれた膨大な記録・情報は、半永久的に伝え続けられる記念碑的作品となり、シマの先祖(おやふぁーふじ)と子孫(くわっんまが)とをつなぐ宝となっていくであろう。

 (辻雄二・琉球大学教授)

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 「奥武方言」編集委員会 先人から継承された「おうくとぅば」を記録にとどめ、大事なシマの文化として後世に伝えることを目的に、2011年、南城市玉城の奥武区定期総会で発刊を決定。中村一男編集委員長を中心に約7年かけて編さんした。