〈25〉薬の多剤服用 “食べ過ぎ”で副作用


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 私たちの老健施設には、いろいろなクリニック、病院から紹介された利用者が入所しています。勤め始めた頃、非常に気になることが多々ありました。その中で最も感じたのは、高齢でも薬の数が半端ではないということでした。

 多い方は20種類以上にもなり、薬を「飲む」ではなく「食べる」ような状況があります。ご家族は気にならないのかと思いました。ある時はご家族が「薬は減らせないのか」と主治医ではなく、施設長の私に相談してくることもありました。その際は薬の内容を検討して、可能な限り減らすようにしています。

 薬の内容を見てみると、睡眠薬、抗不安薬、向精神薬、利尿薬、降圧剤、緩下剤、腸管鎮痙剤、胃薬、抗凝固薬、整腸剤、骨・カルシウム薬、糖尿病治療薬、抗アレルギー剤、ぜんそくの薬などを服用しています。これでは薬の相互作用などで、ますます体調がおかしくなると思います。また日常生活の食事摂取に支障をきたす恐れも大きくなると思われます。

 ある大学の調査で高齢者が服用する薬が6種類以上に増えると、有害事象(副作用)が明らかに増えると判明しました。またある診療所に通院している高齢者を追跡し、転倒の発生頻度を調べると、薬が4種類以下だと転倒リスクが20%以下であったのに対して、5種類以上では40%前後に増えたという結果になりました。

 こうした多剤服用によって発生する副作用は多種多様です。特に高齢者の場合、ふらつきや転倒、食欲不振などが多いのですが、これらは「年のせい」ではなく、いわゆる「薬剤起因性老年症候群」の場合があるのではないかと思われます。また欧米では薬の「副作用死」の調査研究も行われており、米国では年間推計10万人以上が副作用で死亡しています。

 医師向けに「薬に関する心得」を提言していますが、利用者の方々、そして家族の皆さんに提言したいのです。薬の“食べ過ぎ”を改善するよう、ぜひ皆さんのやさしい主治医に提案してほしいと思います。

(上里一雄、介護老人保健施設はまゆう 内科)