『ぼくの目ざわり耳ざわり』 こだわりに普遍的格好よさ


社会
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『ぼくの目ざわり耳ざわり』普久原恒勇著 琉球新報社・1980円

 読み終えてハタッとひざをたたいた。普久原恒勇氏の、あの魅力的なたたずまいは「トゥンタッチヰーのダンディズム(こだわりの格好のよさ)」なんだなあと。

 沖縄の大作曲家・レコードプロデューサーである普久原氏が、世間のどんなことに、目障り・耳障りがあるのかしらん、と読みすすむと、古今東西・森羅万象、どんなことにも興味津々なのである。沖縄の芸能、ヤマトの芸能、社会情勢、世間話、格言、失われつつある沖縄の風習、ウチナーグチへの思い、そして音楽について。その多重的な見方を、ラジオDJのトークのようなユーモアあふれる、強弱の効いた文体で奏でるエッセー123本は、どこから読んでも興味深いが、あえて目次通り、2016年6月から18年11月まで琉球新報で連載されていた順序通りに読むといいかもしれない。

 生活のなかに息づいていた古語としてのウチナーグチの造詣の深さにウムムとうなりつつ、頻繁に引用される古今東西の格言とその解釈に、ニヤリとしてしまう。例えば、オスカー・ワイルドの「外見で人を判断しないのは愚か者だ」と沖縄のことわざ「上辺美らあが内根性」を対比させつつ、さりげなく諸説を展開していく感じがタマンナイわけなのです。

 音楽の話はあまり書きたくないとおっしゃってますが、数少ないそのオハナシに、ぼくはとても刺激を受けました。氏の名言「音楽には国境がある」をわかりやすくふれている第13話「音楽をする人」は、沖縄で表現活動をする若い世代への厳しくも心優しいメッセージだ。〈すぐれた作家は外国に学び、足元から民族の霊魂を拾い上げこの邦のモノを創り上げるという手順〉。足元の生活・文化という「民族の霊魂」を拾い上げる姿勢は、両足でしっかり地面を踏みしめる沖縄の座り方〈トゥンタッチヰー〉とつながる、逆説的な美的意識、普遍的な格好のよさがある。

 ページをめくると、古くて、新しい、土臭いけれど、洗練されたもう一つの〈普久原メロディー〉が流れていました。 

 (新城和博・編集者)

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 ふくはら・つねお 1932年大阪市生まれ。沖縄で琉球古典音楽、琉球民謡のプロデュースや作曲に携わるようになり、「芭蕉布」「ゆうなの花」など「普久原メロディー」と呼ばれる歌曲を生み出し、作曲数は500を超える。第1回宮良長包音楽賞など受賞多数。

 

普久原恒勇 著
四六判 268頁

¥1,800(税抜き)