『反戦平和の源流 近代沖縄の民衆運動』 歴史的使命への自覚促す


社会
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『反戦平和の源流 近代沖縄の民衆運動』安仁屋政昭著 あけぼの出版・1760円

 復元完了したばかりの首里城炎上のショックは大きい。しかし、再建への県民の起(た)ち上がりには目を見張るものがある。沖縄県民のこのパワーは何だろうか、そう思いつつこの本を読んだ。

 本書は、明治・大正・戦前の昭和という近代沖縄の社会主義運動、労働組合、普選・政党活動、第1回婦人解放大会、教員運動、社会科学研究会はじめ沖縄県人会などの活動を弾圧に抗しつつ展開した県民の活動、主要人物、年表をわかりやすくまとめた好著。中でも、それら諸活動に関わった松本三益へのインタビューは実に詳細で、沖縄近代史を総合的、立体的に理解する上でこれ以上ない貴重な証言だろう。

 戦前は治安維持法や統制、そして戦後の米軍政下での渡航制限は戦前戦後の政治活動歴なども根拠とされ、また、布令による出版許可制、立法院の共産主義調査委員会設置もあり、沖縄では大衆闘争などの証言や記録公刊は憚(はばか)られ、歴史研究の障害ともなっていた。復帰後は回想録や自伝などが多数出版される中、渡航自由を獲得し帰郷した際の松本対談は貴重な歴史証言で、今なお新鮮である。ややともすれば思想・文化の遅れた地方と思われた沖縄だが、実際は差別や弾圧を恐れず近代日本の反体制運動、大衆運動をリードしていたこと、そうした自覚的で実践的な人々を数多く生んだ地域であったことが見えてくる。

 さらには、米軍統治下の戦後27年、世界最大の米軍事権力と対峙(たいじ)して不屈の闘いを展開した瀬長亀次郎。その恩師松原多摩喜の人間味あふれる書簡。復帰後、平和憲法を形骸化させてはならないと、憲法普及協の結成や自衛隊住民登録拒否をした気概ある那覇市長・平良良松の若き日の近衛師団文書の冤罪弾圧事件の新資料も収録されていて興味深い。

 戦後も74年、昭和・平成・令和と年号が変わるなか、劣化し閉塞(へいそく)する日本の政治や民主主義。それを問い糾(ただ)し続けている沖縄のアイデンティティー。どうやら沖縄は日本再生の先駆的地域になっているのではないか。本書はそうした沖縄の歴史的使命への自覚を促す記憶の本でもある。(真栄里泰山・沖縄大学客員教授、おきなわ住民自治研究所理事長)

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 あにや・まさあき 1934年12月生まれ。57年に広島大学文学部史学科卒業(日本史専攻)。那覇高校教諭、沖縄資料編集所資料調査官などを経て、沖縄国際大学助教授、教授を歴任。現在、沖縄国際大学名誉教授。沖縄平和ネットワーク代表。著書・編著に『裁かれた沖縄戦』『沖縄の無産運動』など。