『菜の子ちゃんとマジムンの森 日本全国不思議案内4』 森の奥でつながる海と空


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『菜の子ちゃんとマジムンの森 日本全国不思議案内4』富安陽子作、蒲原元画 福音館書店・1540円

 「ブナガヤ」と聞くと、私はすぐに生まれ故郷、大宜味村喜如嘉の緑豊かな山や糸芭蕉を思い浮かべる。菜の子ちゃんシリーズの第4弾は沖縄が舞台。山原の森に棲(す)む妖怪ブナガヤの物語である。今回、ブナガヤの取材に同行したこともあり、ワクワクしながらページをめくった。

 主人公の不思議な転校生、菜の子ちゃんが同じクラスのユージと共にシーサーにまたがりキラキラと輝く森と空と海を駆けめぐる。落とし物をして泣いていたブナガヤがふたりに届けてもらうと祠(ほこら)の前で赤い髪をゆらしてチョンチョン跳びはねる。しまくとぅばで喜ぶ姿がなんとも愛らしい。

 ブナガヤはふたりを引っ張って七滝の滝つぼに飛び込み、深く潜っていく。守礼門のような海の門が開くと色とりどりの魚たち。ふたりは巨大な白マンタの背中に乗っかり真っ暗な海底を進むと、ヘゴやイタジイが茂った森に行き着く。海と空がつながったのだ。深い森や深海のシーンはまるで自分が空と海を飛んでいるようで、物語の中にどっぷりと入り込んでいた。著者と画家の描写の美しさが際立つ。

 著者の作品はどれも森、川、空、海などの自然や動物、妖怪が多く登場し、映像が目に浮かぶ。子どもだけではなく大人も魅了され、心が豊かになる。

 著者は小さいころから親や親せきからいろいろな面白い物語を聞いて育ったという。著者のお話は絶妙な語り口で温かな家庭を想像できる。ファンタジーだがブナガヤや自然や菜の子ちゃんを通したメッセージを感じる。人間が本来持っている観察力や優しさ、自然、動物、人との関わり、文化や行事への参加などコミュニケーションを大切にしてほしいという願いである。

 シリーズには毎回、付録「菜の子ちゃん通信」が付く。妖怪や地域の紹介、クイズもあり、楽しみながら読める。

 ブナガヤは平和のシンボルである。軍事基地のない森が残る大宜味村にしか棲んでいないという。いつまでも菜の子ちゃんのようにピュアな心の子どもたちとブナガヤが生き続けてほしいと願う。 (大城三重子・沖縄県子どもの本研究会会員)

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 とみやす・ようこ 1959年東京生まれ。高校在学中から童話を執筆。主な作品に『クヌギ林のザワザワ荘』(小学館文学賞、日本児童文学者協会新人賞)、『小さなスズナ姫』シリーズ(新美南吉児童文学賞)など。▽かもはら・げん 1975年生まれ。イラスト、アニメーションなど多方面で活躍。

 

菜の子ちゃんとマジムンの森 日本全国ふしぎ案内4 (福音館創作童話シリーズ)