辺野古抗告訴訟 知事意見陳述 全文


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「辺野古抗告訴訟」第1回口頭弁論が行われた那覇地裁の法廷=26日午後2時43分(代表撮影)

沖縄県知事の玉城デニーでございます。本日は、意見陳述の機会を与えていただきましたことに、心から感謝申し上げます。私は、昨年の県知事選挙において、亡き翁長雄志前知事の遺志を継ぎ、「辺野古新基地建設阻止」「普天間飛行場の閉鎖・撤去、一日も早い運用停止」を公約に掲げ、辺野古埋め立てに反対する民意の力強い後押しを受けて、知事に就任いたしました。本件訴訟の口頭弁論に当たり、県民を代表して意見を申し上げます。

今から74年前の第2次世界大戦において、沖縄では、軍隊と民間人が混在する中での凄惨(せいさん)な地上戦が行われ、沖縄県民約10万人を含む20万余の人々が犠牲になりました。戦後は、多くの県民が収容所に収容され、その間に強制的に土地を接収されました。

普天間飛行場もその一つです。収容所から戻った住民は、家や土地を奪われ、飛行場の周辺に住まわざるを得ませんでした。その結果、市街地の中心に位置し、周辺を住宅や学校に囲まれた現在の普天間飛行場となったのです。

昭和30年前後の本土での反基地運動の激化に伴い、当時、岐阜県や山梨県にあった海兵隊基地も、米国施政権下の沖縄へ移転されることとなり、米軍は「銃剣とブルドーザー」で住民を追い出し、家を壊し、田畑をつぶして、新たな基地を造っていきました。

昭和47年の本土復帰後も、沖縄には多くの米軍基地が日米安全保障条約に基づく提供施設・区域として引き継がれることとなりましたが、その一方で、本土では沖縄よりも米軍基地の整理・縮小が進んだ結果、沖縄県の日本全体に占める米軍専用施設の負担割合は大きくなっていきました。

このような経緯から、戦後74年を経た現在もなお、国土面積の約0・6%である沖縄県に、米軍専用施設面積の約70・3%が存在しており、基地から派生するさまざまな事件・事故など、過重な基地負担が、解決しなければならない現実の問題として残されているのです。

このように、沖縄の米軍基地は強制接収により造られたものであり、現在も県民は過重な基地負担を背負わされ続けていることをご理解いただきたいと思います。

そして、今度は日本政府によって、辺野古に新たな基地が造られようとしております。平成7年に発生した米兵による少女暴行事件をきっかけとして、日米両政府間に「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)」が設置され、平成8年に、撤去可能な海上施設を前提として、普天間飛行場の全面返還が合意されました。

その後、さまざまな変遷を経て、平成18年に日米両政府は辺野古沿岸海域を埋め立てるV字型案に合意し、この埋め立て案について、平成25年12月に仲井真弘多元知事が埋め立てを承認しました。

こうして始まった辺野古埋立工事には、実に多くの問題があることが、承認後に判明しました。県は、辺野古埋立工事の問題点について、行政法や環境分野等の専門家の意見を聴きながら、法的な観点から慎重な検討を重ねてまいりました。

その結果、辺野古埋立工事は、公有水面埋立法の承認要件を充足しなくなったこと、そして、沖縄防衛局が埋立工事を行う事業者として、法令上遵守(じゅんしゅ)すべき義務と責任を果たしていないことが認められたため、県は、平成30年8月31日に、本件工事に係る埋立承認の取り消しを行ったのです。

ここで、辺野古埋立工事がいかに問題の多い工事であるかについて、申し上げます。最も重要な問題として、計画地の大浦湾には、護岸等の安定性や沈下に影響する非常に緩く軟らかい軟弱地盤が広範に分布しており、最も深いところでは水面下90メートルにも及んでいることが明らかとなっております。

政府は、当初、軟弱地盤の存在を認めておりませんでしたが、県の承認取り消し後、突如その存在を認めるとともに、地盤改良工事を行うことで対応できるから問題ないと主張しました。仮に地盤改良工事で軟弱地盤に対応できるとしても、地盤改良が完了するまでは護岸の設置も土砂の投入もできず、埋立工事の完了は大幅に遅れていきます。

さらに、埋立完了後に施設整備を行う計画であることを踏まえれば、埋立地が完成し、普天間飛行場の返還が実現するまでにあとどれだけの年月を要するのか、政府自身ですら全く見通しが立てられない状況にあります。

このような状況にあっては、辺野古移設は、普天間飛行場の閉鎖・返還や一日も早い危険性の除去のための解決策とはならないことが明らかです。そもそも、辺野古新基地は陸地をまたぐ埋め立てによって建設する計画であり、また、大浦湾側は海底面が傾斜している上に、軟弱地盤と固い地盤が混在するため、計画地一帯の地盤は不均一に沈下します。

このことを「不等沈下」と言いますが、不等沈下によって地盤に起伏が生じれば、当然ながらその上にある滑走路や建物は大きなダメージを負うことになります。つまり、地盤改良を行って新基地を完成させたとしても、今後何十年もの長きにわたり不等沈下の対策が必要となるのであり、基地として使い物にならない上に、維持・補修のために莫大(ばくだい)な経費を要することになります。

また、当然ながら、大規模な地盤改良工事を実施すれば、周辺海域の環境に甚大な被害が及ぶことも想定されます。その他にも、埋立区域の海底に活断層の存在が専門家により指摘されていること、計画地周辺の建物が米軍統一基準の高さ制限に抵触すること、新基地完成後も統合計画による返還条件が満たされなければ普天間飛行場は返還されないことなどが、承認後に判明しております。

このように、現計画地は新基地の建設場所として多くの問題があり、埋立地の用途に照らして適切な場所と言えないことは明らかです。

また、県は、埋立承認の条件として、「実施設計について事前に県と協議を行うこと」との留意事項を付していました。しかしながら、沖縄防衛局は、護岸全体の実施設計を示さないまま一方的に協議の終了を主張し、護岸工事に着手しました。

さらに、埋立工事の施工順序を勝手に変更し、願書の記載と異なる海上搬入を行うなど、承認時と異なる工事を実施しましたが、計画変更などの手続きは行われておりません。このような違反行為について、沖縄防衛局は、願書や留意事項等の内容を都合よく解釈して言い逃れを行い、是正を求める県の指導にも一切従いませんでした。

国の機関と言えども、埋立工事は承認の範囲内で実施することは当然のことであり、ましてや、承認権者が付した留意事項を一方的に解釈し、その指導に従わなくても問題ないとする対応が認められるはずがありません。これが、民間事業者が実施する埋立工事であれば、留意事項に違反し、行政指導にも従わないということはあり得ず、仮にそのような行為があれば、埋立免許の取消しなどの重い処分を受けることになります。

そして、環境保全の観点からも、本件埋立工事を継続することには大きな問題があります。沖縄防衛局は、願書において事業実施前に行うとされていたサンゴ類の移植を行わないまま護岸工事に着手しました。また、土砂の運搬や監視・警戒システムがジュゴンの生息環境に影響を与える懸念があること、埋立区域内の海草藻場について、土砂の投入前に移植を含めた保全措置が必要であることなどについても、県は何度も指導を行いましたが、改善が図られることはなく、いまだ十分な保全措置は講じられておりません。

計画地の辺野古・大浦湾は、良好なサンゴ生息域であり、絶滅危惧種262種を含む5300種以上の生物が生息する生物多様性の豊かな海です。計画地周辺にはジュゴンが回遊し、その餌場となる海草藻場も県内最大の規模を誇るなど、沖縄の中でも特に自然環境が優れた地域です。

環境省においても、大浦湾にそそぐ大浦川およびその河口域が生物多様性の観点から重要度が高い湿地であるとして、「日本の重要湿地500」や、ラムサール条約湿地としての国際基準を満たすと認められる潜在候補地に選定しております。

このような美しい海で埋立工事を行う事業者は、環境保全に対する重い責任を負いますが、沖縄防衛局はその責任を十分に果たしておりません。

去る9月の台風17号襲来時においても、沖縄防衛局は自ら実施するとし、環境監視等委員会にも報告した保全措置を行わず、撤去すべきフロートを放置した結果、強風により移動したアンカーが海底面を削り、そこに生息する海草藻場やサンゴ類への被害を発生させております。

このような被害は昨年にも発生しており、十分な対策が講じられないまま、埋立工事による環境破壊が繰り返されています。こうしたことからも、沖縄防衛局が環境保全に対する責任を果たしていないことは明らかです。

サンゴが死滅し、ジュゴンがいなくなり、豊かな藻場が失われて、はじめて環境保全に問題があったと認めるつもりなのでしょうか。これまで述べてきたこと以外にも、辺野古埋立工事には多くの問題があり、このようなことから、承認の要件を満たさなくなっていることは明らかであり、県が行った承認取り消しは適法なものであります。

県が行った承認取り消しに対して、沖縄防衛局長は、自らを私人と同じ立場にあるとして行政不服審査制度を用いて審査請求を行い、これを受けて、平成31年4月5日に、国土交通大臣は県の承認取り消しを取り消す裁決を行いました。

今回、政府は国民の権利利益の救済を目的とする行政不服審査制度を濫用(らんよう)しました。

このような裁決が正当化されてしまえば、政府は、地方公共団体の判断を容易に覆し、自らの意向を押し通すことができることになります。これは、自治権の侵害に他なりません。

そして、先ほど述べた通り、県が行った承認取り消しは、法令により都道府県知事に与えられた権限を適法に行使したものであり、これを取り消されるいわれは全くありません。

沖縄では、過去2回の知事選挙において辺野古移設反対を掲げる候補者が当選しております。また、名護市辺野古を選挙区とする今年4月の衆議院議員補欠選挙では、辺野古移設が明確な争点として争われ、移設に反対する候補者が当選したほか、7月の参議院議員選挙においても、移設反対を掲げる候補者が当選しております。

このように、県民は、これまでの一連の選挙において、何度も反対の民意を示してきたのです。去る2月24日には辺野古米軍基地建設のための埋め立て賛否を問う県民投票が行われ、投票者総数60万5385票の7割を超える43万4273票が辺野古埋め立てに「反対」との意思を示しました。

これは知事選における私の得票数を上回るものであり、これ以上沖縄に新たな基地を造ってほしくないという県民の願いであります。普天間飛行場の機能を辺野古に移したとしても、新たな基地で訓練が繰り返されるだけであり、基地負担がなくなるわけではありません。

また、辺野古に建設されようとしている新基地には、普天間飛行場にはない新たな機能が加わることとされていますので、この基地が稼働することになれば、そこから新たな基地負担が生まれます。

私は、県民の生命と財産を守る立場にある知事として、未来の子どもたちに新たな負担を押し付ける選択は取りえません。

この観点からも、違法に進められている工事を黙って見過ごすわけにはまいりません。普天間飛行場の一日も早い危険性の除去が喫緊の課題であるということは、政府と県の共通の認識であります。しかしながら、「辺野古が唯一の選択肢」であることについて明確な説明がないまま、工事は強行されています。

公有水面埋立法に照らして大きな問題のある工事を、さまざまな理屈をつけて強行するのはなぜでしょうか。普天間飛行場の一日も早い危険性の除去という埋立工事を行う本来の目的を見失い、県民の民意を踏みにじってまで埋立工事を強行する政府の態度は、まさに、新基地建設という手段が目的化してしまっていると言わざるを得ません。

最後になりますが、改めて申すまでもなく、司法権は三権の一つとして、行政権をチェックすべき任務を負っております。その司法が政府の過ちを正すことなく制度の濫用を見て見ぬふりをするようなことがあれば、今後、政府はあらゆる場面で同様のことを繰り返しかねません。

これは、沖縄だけの問題ではなく、全ての地方公共団体において現実に起こりうる問題です。辺野古埋立工事はまさに今この瞬間も進められております。辺野古埋め立てを正当化する理由が既に失われている現状において、県民投票で明確に示された民意を無視し、工事を強行することは、法令に違反し、民主主義を踏みにじり、地方自治を破壊するものであります。

辺野古新基地建設問題の解決に命を懸けた先人がおります。今も懸命に声を上げ続けている方々がおります。そして、対話と発信により無関心を共感に変えようとする次世代を担う若者がおります。県民はさまざまな思いを抱えながら、この問題を乗り越えようとしております。

本件訴訟は、苦難と対立の連鎖を断ち切り、前に進もうとする沖縄の意思を示す意義をも持つものです。裁判所におかれましては、県民の民意と本気で向き合い、県民投票で示された未来への願いを正面から受け止めていただくとともに、法の番人として、憲法が掲げた地方自治の理念を実現するために、埋立承認を巡る一連の問題について、実体的な審理を行い、正しい判断を示していただくことを希望いたします。