種子条例で食・農守れ 県内で勉強会、制定へ機運 12日、米識者招き講演会


社会
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 戦後の日本で農産物の種子の安定供給を支えた主要農作物種子法(種子法)が廃止され、全国で同法に代わる独自の条例を制定する動きが広がる中、県内でも「食と農の安全・安心」を次世代に手渡す種子条例を制定しようと、勉強会や署名活動が始まっている。

「食と農の勉強会」で在来農作物の大切さなどを語る上原文子さん(左端)ら=11月26日、南風原町中央公民館

 「食の安全を考える上で種子は非常に重要。かつてアイルランドで飢饉(ききん)が起き、大量の移民が出たのは1種類のイモしか作っていなかったから。いろんな気候、地域に多種多様な品種があることがリスクを分散し、食の安全保障になる」。11月26日、南風原町中央公民館で開かれた勉強会で沖縄大学名誉教授の桜井国俊さんは力を込めた。

法廃止で不安広がる

 戦後の食糧難に国民の食料を確保するために制定された同法は、米、麦、大豆について都道府県が優良な種子を生産・普及することを義務づけた。国や都道府県が開発した品種は“公共の種子”として活用されたが国は2018年、種子の開発に民間参入を促すことなどを理由に同法を廃止。行政の関わりが減ることで企業による種子の独占、価格の高騰などへの懸念が全国的に広がっている。

 実際、種子法の対象外だった野菜では、数社の多国籍企業が、自社で開発した種子を世界中で販売してシェアを拡大。各地の固有種が栽培されなくなり、多様性が失われつつある。

子や孫に伝えたい

 元参議院議員の糸数慶子さんは「モリカケ問題で国会が紛糾する中、わずか数時間の審議で廃止された。多くの国民、県民が知らないままだ」と問題視。「地域に合った在来の種子を子・孫の代まで伝えたい」と桜井さんらと「沖縄の食と農を守る連絡協議会」を結成。沖縄の在来種を登録して“公共種子”として守る「生物多様性種子条例」を制定しようと本島各地で勉強会を開き、署名活動も展開している。

 南風原町での勉強会は、農家や食に関心がある人たち約50人で満員。発言を促され、農家の男性は「沖縄の在来種は大豆だけで9品種、大根も5系統がある。一言で『大豆』『大根』といっても多様な世界がある」と豊かさを指摘した。別の農家は「農業は労働時間が長く時給換算すると、とても低い。種を大事にしたいが、手間のかかる種取りはできない。意見交換しながら解決策を探したい」と現状を訴えた。

在来が一番

 11月30日には農作物を育てる現場を見ようと「食と農をめぐるバスツアー」で約30人が那覇市、糸満市などの農家を回った。在来の野菜を育てて種を取り、知人や友人にも分けて大切に育てる上原文子さん(70代)=豊見城市=は「沖縄にある野菜は、沖縄の台風も干ばつも経験してきたもので、祖先たちも食べてきた。昔からあるものを食べるのが一番いい」と話し「近くで育てたものが一番。どんな原野でも畑にできる。みんなでハルサーしよう」と笑った。

 12日には、米国で子どもの健康と食の安全を守る活動をするゼン・ハニーカットさんの講演会を那覇市の県立博物館・美術館で午後2時半から開く。前売り券千円(当日1500円)、高校生以下無料。那覇市のブックカフェ&ホール「ゆかるひ」、カフェ&レストラン「浮島ガーデン」で販売。問い合わせは島袋さん(電話)080(6494)3073。