本書は帯の記載が示すように、確かに「数多くの具体例に基づき、日本語との違いにとどまらず、沖縄語のしくみの独自性を解りやすく徹底解説」している。「うちなーぐち」を概観した第1章と「沖縄語のしくみ」を記述した第2章の二つの章からなるが、第2章がメインである。ところどころに言語学の専門用語が出てくるが、それらに詳しくなくても、例文と解説を読めば内容は理解できるように工夫されている。
第1章では、語彙(ごい)やうちなーぐちで表される精神文化における日本語との違いなどを示しながら、うちなーぐちは日本語の方言ではなく、(姉妹関係にある)独立した言語であると解説している。第2章は「音声について」「名詞について」「助詞について」「動詞を構成する要素について」「形容詞について」「焦点化構文」などを含め11の節から構成されている。
本書(特に第2章)が一般の「うちなーぐち書籍」と異なるところは、日常生活の場面ごとではなく、文法項目ごとにまとめられていることである。また、単語を構成する要素の「形態素」に言及して動詞の活用等を徹底解説していることも本書の特徴である。部分を理解し、そこから全体を理解することができる。
うちなーぐちの独自性を示すとされる「証拠性」、「焦点化構文」なども解説していて、うちなーぐちが日本語の方言ではないという著者の主張が十分理解できる。また、動詞・形容詞の活用については、例文は平仮名ベースの記述がされているが、「語根」が母音で終わるのか、子音で終わるのかにより、活用形が異なることを詳しく説明している。うちなーぐちを学んでいる者から、系統立てた動詞の活用について知りたい、という要望を聞くことがあるが、本書はそのような要望にも応えるものである。
沖縄県全域および奄美諸島で話される琉球諸語は消滅の危機に瀕(ひん)している。言語復興には一般向けの優れた文法書が必要であるが、本書はそのひとつなのだと思われる。 (石原昌英・琉球大学国際地域創造学部教授)
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みやら・しんしょう 1946年石垣市生まれ。琉球大名誉教授、沖縄外国文学会顧問。専門は言語学。2011年~15年、琉球継承言語会会長を務める。近著に『沖縄語で語る「竹取物語」竹取やー御主前ぬ物語』など。