琉球列島の集落はいつ頃、どのような経緯で今、見ることのできる景観になっていったのか。これまでに歴史学、考古学、建築学と各分野から検証されてきた。この疑問をそれぞれの分野が横断できる形で触れているのが本書である。
近年において考古学分野でも近世や近代を調査の対象としている傾向が強く見られるようになり、集落における屋敷跡はもちろん、集落内の区画や道、井戸、古墓、さらには畑や水田までもが発掘調査の対象となってきている。発掘調査の強みはその構築時期や機能の変遷などを明らかにできる点にある。
一方で調査範囲はかなり限定的になってしまう弱みがある。当然だが集落は個々のモノではなくさまざまなモノや要素がかみ合って成立していることから、考古資料だけではどうしても限界が生じてくるのは必然だ。
よって、他分野ではどのように沖縄における古い集落が理解されているのかといったことを調べていくものの、なかなか取っ付きにくいのが現状である。その理由は分野の枠内で集落を捕捉しており、他の分野へベクトルが向けられているような集落論が見られないことによる。右のような状況下で本書が刊行されたことの意義は大きい。
本書では他分野との協業によって集落の全体像を炙(あぶ)り出そうとしている点が強調されている。それは執筆陣が地理学、建築学、歴史学、農学と諸分野で構成され、それぞれに読み応えのある集落論を惜しみ無く披露していることからも分かる。
また、過去2度にわたって行われたシンポジウム「生き続ける琉球の村落」が採録されており、各分野を越えて集落の実態に迫るクロストークは読者の興味を刺激するのに十分な内容となっている。一つ残念な点を挙げるとすれば考古学側からの参戦が見られないことくらいか。
普段何気なく見ている沖縄の集落もその成立過程を見ることによってまた、違う景観に見えてくる。その不思議な感覚を体験できるのは、本書を熟読した者の特権であると言える。
(山本正昭・県立博物館・美術館主任学芸員)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
編集と執筆 編集は鎌田誠史武庫川女子大准教授、山元貴継中部大准教授、浦山隆一富山国際大客員教授、執筆は仲間勇栄琉大名誉教授、高良倉吉琉大名誉教授、安里進・元県立博物館・美術館館長、澁谷鎮明中部大教授。調査研究成果や講演、論文などを大幅に編集しまとめた。
風響社
売り上げランキング: 435,443