<社説>総務事務次官更迭 なれ合いの構図にメスを


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 監督官庁の事務方トップが行政処分の情報を対象者側に漏らしていた。極めて重大な不祥事である。

 かんぽ生命保険と日本郵便の保険不正販売問題を巡り、総務省の鈴木茂樹事務次官が行政処分案の検討状況を日本郵政グループに漏らしていた。高市早苗総務相は鈴木氏を停職3カ月の懲戒処分とし、同氏の辞職を受け入れた。事実上の更迭だ。
 高市氏は「公務の中立性を損なった。おわび申し上げる」と陳謝し、鈴木氏の行為は国家公務員法が禁じる信用失墜行為に当たると説明した。更迭は当然だが、問題は信用失墜だけにとどまらない。
 いわば、警察などの捜査機関が捜査情報を被疑者に漏らすようなものだ。当然ながら、情報を受けた側は証拠隠しやつじつま合わせなどの行動を取る恐れがある。
 実際、今回は日本郵政側が総務省による行政処分の検討状況を事前に把握し、関係者に働き掛けているとの情報を得て省内で内部監察をし、事案が発覚したという。
 さらに驚くのは、漏らした相手が元総務事務次官の鈴木康雄日本郵政上級副社長である点だ。両者は旧郵政省の先輩後輩に当たる。高市氏は「先輩後輩の関係でやむを得ない事情があったと拝察する」というが、間柄うんぬんで許されるはずがない。
 漏らした側は、処分に手心を加えたり見返りを求めたりしようとしていなかったかと疑われても仕方がない。鈴木次官は「自分の軽率な行為で迷惑を掛けた」と話したというが、なぜ軽率な行為をしたのか。辞職では済まない。詳細を説明すべきだ。
 一方の鈴木副社長は、かんぽの不正販売を追及したNHK番組への抗議を執拗(しつよう)に続けた人物だ。放送行政を監督する官庁の元トップという肩書を強調し、NHKの取材手法に対し「暴力団と一緒でしょ」などと発言している。
 保険の不正販売問題では、各地の高齢者ら顧客に過去5年間で不利益を与えた可能性のある約18万3千件のうち、法令や社内規則に違反した疑いのある契約が約1万3千件に上る。沖縄も含まれているが、日本郵政は件数すら公表していない。実に不誠実だ。
 鈴木副社長が先輩の立場を利用して処分内容を聞き出し、長門正貢社長ら幹部と情報を共有してはいなかったか。郵政側は疑念に応え、一刻も早く説明責任を果たすべきだ。
 日本郵政グループは各社に総務省出身の役員がいる。今回のような出来事が長年続いていたのではないかと疑わざるを得ない。癒着の構図に徹底的にメスを入れ、郵政グループへの天下りは一切禁止すべきだ。
 日本郵政は今も政府が筆頭株主として57%の株式を保有している。郵政民営化を推進する一方で天下りや収益の低迷を長年放置し、不正販売の横行を見抜けなかった政権の責任も厳しく問われてこよう。