こんな風に近づいてくる人に狙われたら、なんとしよう。“あなたの心の隙”なんていうけれど、善意の隙に付け込まれたらもう逃げられる気がしない。バスやモノレールに誰かが忘れ物をしたとしても、決して自分で届けてあげようなんて思ってはいけない。
レストランで働く心優しいフランシスは、困っているだろうからと座席に忘れられたバッグを届けたばっかりに身も凍る恐怖を味わうことになる。彼女に隙があったとしたら、母親を亡くしたばかりの寂しさをバッグの持ち主グレタに知られてしまったこと。
優しい物腰、2人で作る料理。フランシスがグレタを慕う要素はそろっていた。それも、グレタの家の棚に、届けた緑色のバッグと同じものが整然と並ぶ様を見るまでだが。
グレタを演じるフランス女優のイザベル・ユペールの存在感がすさまじい。人を信じるなと教えるのはあまりにも寂しいが、心優しい若者たちがその優しさを利用されないように教訓としてみるには最適。
監督はニール・ジョーダン。
(スターシアターズ・榮慶子)