福島と沖縄つなぐ「奇跡のピアノ」 修理続ける遠藤洋さん「音色から感じて」 13日に沖縄公演


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「奇跡のピアノ」の点検をする遠藤洋さん=2019年12月7日、福島県いわき市の「ピアノショップいわき」

 「福島を伝える 沖縄を思う」―。2011年3月11日の東日本大震災の大津波被害からよみがえった「奇跡のピアノ」のコンサートが13日、那覇市の琉球新報ホールで開かれる。修理し続けることでその命を保つピアノに命の尊さと復興・再生への願いを託し、福島と沖縄を結んで若い世代につなぐことが目的だ。余剰金はピアノの修理・維持費に寄付する。ピアノと共に初来県するいわき市の調律師、遠藤洋(ひろし)さん(60)に沖縄コンサートに込めた思いを聞いた。

 東日本大震災で津波にのまれたいわき市立豊間(とよま)中学校のグランドピアノは、体育館の舞台袖でがれきに埋もれ、横になっていた。5月中旬、がれき撤去に当たった自衛隊の隊長の判断で、体育館の真ん中に残された。

 「最初見た時は駄目だと思った。でも、そのままならがれき置き場に行ってしまう。寄贈された方の名前があり、思いが込められたピアノだ」。地元でピアノショップを営む遠藤さんは、復活させようと決意し、引き取りを申し出、7月末に許可を得た。

 調律師の2人の息子、妻の紀子さんと家族4人がかりで修理に取り掛かった。内部の砂を取り除くことから始まり、240本の弦も全て張り替え、本体と金属製のフレームなどを除く部品を全て交換した。その数は1万点に及んだ。

 この年のNHK紅白歌合戦で、嵐の櫻井翔さんが復活したピアノを弾き、話題になった。その後、台湾、シンガポールも含め70回を超えるコンサートが行われ、復興への祈りを象徴する「奇跡のピアノ」として知られるようになった。

 今も、木材部分から塩分がしみ出し、弦にさびが出る。「1、2本切れだしたら全部張り替える。それから調律を始めて落ち着くまでには半年かかる」

 これまで4回張り替え、その都度、丁寧に調律を重ねてきた。「このピアノがあったおかげで気付かされているし、勉強している」と遠藤さんは語る。

 今回のコンサートは、毎年3・11の頃に地元で開いている「絆コンサート」を沖縄の地で開催しようというものだ。絆コンサートに出演してきた寺島夕紗子(ゆさこ)さん(ソプラノ)、横山歩(あゆみ)さん(ピアノ)と、沖縄の音楽家や那覇少年少女合唱団、那覇市立石嶺小学校合唱団が共演する。

 初めて訪れる沖縄について、遠藤さんは基地問題や首里城焼失も気に掛けている。「福島から行くピアノの音色や子どもたちの歌声を聞いて、何か感じていただければ」と控えめに話した。
 (米倉外昭)
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 「いのちよ響け『奇跡のピアノ』沖縄コンサート~『さとうきび畑』とともに~」(同実行委員会主催、琉球新報社共催)は13日(月・成人の日)、那覇市泉崎の琉球新報ホールで午後2時からと同6時半からの2回開かれる。出演は寺島夕紗子、横山歩、長南牧人、大城英明、那覇ジュニアオーケストラ、那覇市立石嶺小学校合唱団、那覇少年少女合唱団ほか。一般前売り2500円、高校生以下千円(当日500円増し)。問い合わせは(電話)090(1818)8129(小林)、(電話)090(1179)1577(真栄田)。