まさか、自分のところで… 養豚業者、陽性に衝撃 千頭殺処分で収入ゼロに〈感染豚コレラ 県内畜産業への波紋〉①


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 県内で豚コレラ(CSF)が34年ぶりに確認された。豚肉は県民食とも言え、近年は「アグー」ブランドを確立して沖縄観光にも欠かせない人気特産品となっている。8日現在で1813頭の殺処分が決まっており、このまま感染が拡大すると県内の畜産業に与える影響は計り知れない。豚コレラの発生に苦渋の思いを抱える養豚業者の間には、風評被害への不安も広がっている。

殺処分された豚を埋めるため、急ピッチで作業が進められる埋却現場=8日午後5時55分、うるま市(小型無人機で撮影)

 「隣の豚舎で豚コレラが発生した疑いがある。そちらの豚舎も検査させてほしい」―。

 養豚業者の代表を務める男性(63)に県の家畜保健衛生所から連絡が入ったのは7日午前8時半のことだった。「まさか」。耳を疑った。

 「間違いであってほしい」と願う男性の思いをよそに、結果は陽性。丹精込めて育てた約1千頭の豚を殺処分しなければならなくなった。

 養豚業に参入したきっかけは2013年ごろ、「新しい町の特産物を考えられないか」と地域の関係者から依頼を受けたことだった。男性はもともと電気工事関連の会社を経営していたが、「地域の発展の役に立てるならば」と新規事業の展開を考えた。

 試行錯誤する中、知人のつてで廃業する農家から約50頭の豚を譲り受けられることになり、養豚業に取り組もうと決めた。50頭のうち4頭の豚はDNA鑑定を経て「琉球在来豚アグー」の認証を受けた。そこから繁殖に取り組み、アグーやアグーの交配種を商品として出荷してきた。

 5~6年かけて沖縄市、うるま市、金武町、名護市にそれぞれ1カ所ずつ、計4カ所の豚舎を構え、全体で1500頭近くの豚を飼育するまでに成長した。ところがうるま市の豚舎と隣接する豚舎で豚コレラの感染が発生。感染は自身の豚舎にも及んでいた。

 「今年の夏は月200頭ほどを出荷できる所まで来ていたのに、これでまた一からに戻ってしまうかもしれない。なぜ自分の所で発生してしまったのか」と男性は途方に暮れている。

 豚舎の衛生管理や豚に与える飼料には気を使ってきた。家畜保健衛生所の指導も受け、豚舎や関連施設の消毒は万全を期し、飼料も残飯などは含まない配合飼料を利用した。国内で豚コレラが発生して以降は、豚舎に部外者を入れないよう注意を払った。「それでも発生してしまった。ショックが大きく、今はため息しか出ない」

 8日現在、うるま市の豚舎の豚は全て殺処分されることが決まったが、残りの3カ所については今後の検査次第という。検査結果で問題が出なければ、時間を掛けてでも立て直したいと考えている。取引先などから「立て直しに協力したい」との声も掛けてもらったといい、男性は「困っているときに手を差し伸べてくれる人がおり、心から感謝している」と目を潤ませた。

 約千頭の豚を殺処分することになり、経済的損失は数千万円に上る可能性もあるという。仮に再興できたとして、再び繁殖させて出荷できるまでには約1年は要するといい、その間は畜産業での収入がほぼなくなる見込みだ。

 「こんなつらい思いをする人をこれ以上増やしてはいけない。県や畜産関係団体には、これ以上被害を広げないための対策に全力を尽くしてほしい」。男性の言葉に力がこもっていた。

(外間愛也)